Shiny Academy

モニターツアー実施コース

~第1話 SNSから予約ページへ、つながらない夜~

前回のあらすじ

さぬきビートのバズを一過性で終わらせないために、SNS運用の仕組みづくりに取り組んだ。まるやまマートの前川さくらの助言を受け、週2回のコンテンツカレンダー(投稿の計画表)を設計し、コメント返信ルール(24時間以内・感謝+1質問)を策定。分析指標をリーチ・エンゲージメント・プロフィールクリックの3つに絞り、宮本がSNSのプロフィール欄に旅行会社のサイトへのリンクを設置した。北村代表理事も分析画面の数字を自分の言葉で読み始め、デジタルへの理解が一歩進んだ。

クリックはあるのに予約がない

晩秋の夜の事務所で神谷と宮本がノートPCのSNS分析画面を見つめている場面

動画制作コースでSNS運用の仕組みが整い、旅行会社と連携したモニターツアー(お客さんに実際に体験してもらうお試しツアー)のページも公開された。コンテンツカレンダー(投稿の計画表)に沿った定期投稿も始まっている。しかし、公開から数日が過ぎても申し込みが伸びない。

晩秋の夜。せとうちマーレブルの事務所は静かだった。窓の外はとっくに暗く、神谷と宮本は上着を羽織ったまま宮本のノートPCの画面を見つめていた。画面にはSNSの分析データが並んでいる。プロフィールのリンクをクリックしてくれる人は一定数いる。数字は動いている。それなのに、ツアーの予約に結びついていない。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
宮本さん、プロフィールのリンクからのクリック数は悪くないんです。でも、そこから予約まで行っている人がほとんどいません
宮本彩の表情アイコン
宮本
クリックはされているのに、予約に至っていない……。途中で離れてしまっている人がいるということですよね

神谷がリンク先を開いてみた。SNSのプロフィールに設定されていたURLは、旅行会社のトップページだった。トップページには多くのツアーが並んでいる。そこから「香川」を見つけ、「屋島×うどん家族旅」の詳細ページにたどり着くまでに何回もタップが必要だった。

神谷が画面上で、SNSのプロフィールから予約完了までの操作を数えた。プロフィールのリンクをタップ→旅行会社トップページで検索バーをタップ→「香川」と入力→検索結果から「屋島×うどん」をタップ→ツアー詳細ページで申し込みボタンをタップ。5回の操作がいる。

スマートフォンの小さな画面で5回も操作を重ねるのは、想像以上に大きなハードルだ。1回操作するたびに読み込みを待ち、画面が変わり、次にどこを押せばいいか探す。特に子どもを寝かしつけた後の疲れた時間帯に、その手間をかけてくれる人は少ない。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
これだ……。リンク先がトップページになっていました。申し込みボタンまで5回も操作が要ります
宮本彩の表情アイコン
宮本
リンク先をツアー詳細ページに直接変えましょう。トップページだと、せっかく興味を持ってくれた人が迷子になってしまいます

宮本がすぐにスマートフォンを取り出し、プロフィールのURLを修正した。旅行会社のトップページではなく、「屋島×うどん家族旅」のツアー詳細ページへの直リンクに差し替える。1分で終わる作業だった。

宮本彩の表情アイコン
宮本
直しました。これでクリックした人は、すぐにツアーの内容が見られます

CTAと投稿タイミング

SNSから予約ページへの導線改善の概念図。改善前は3段階で離脱が発生、改善後は直リンク1本で結ぶ

宮本がリンク先をツアー詳細ページに修正した。しかし、それだけで十分なのか。二人は西園寺にオンラインで相談した。

画面越しに状況を聞いた西園寺が、2つの助言を返してきた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
リンク先を直したのはいい判断ね。でもそれだけだと、まだ足りないの
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
まだ足りない、ですか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
投稿を見た人が、次に何をすればいいかはっきり書いてあげて。これをCTA——「ここを押してね」という誘導文やボタンのこと——と呼ぶの。「プロフィールのリンクからツアー詳細へ」と投稿に書くだけで、押してほしい場所が伝わるでしょう

CTA——コール・トゥ・アクション。次にしてほしい行動を、はっきり言葉にして伝える。リンクがあるだけでは押してもらえない。「ここを押してね」と書いて初めて、見てくれた人の指が動く。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
押してほしいなら、押してとはっきり言うの。遠慮していたら、いつまでも届かないわ
宮本彩の表情アイコン
宮本
なるほど……。今までの投稿には、リンクを押してくださいとはどこにも書いていませんでした
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
CTAは長い文章じゃなくていいの。一行で十分よ。大切なのは、「何をすればいいか」が誰にでも分かることなの。迷わせないことが、一番のおもてなしね

投稿を読んだ人は、次に何をすればいいか分からなければ、そのまま画面を閉じてしまう。逆に、一行の誘導文があるだけで「ああ、ここを押せばいいのか」と行動に移せる。CTAの本質は、見た人を迷わせないことだった。動画をどれだけ丁寧に作っても、投稿の文章をどれだけ工夫しても、「次の一歩」を示さなければ見た人の行動は止まったままになる。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
もう一つあるわ。投稿の時間は、動画制作のときに金曜の夜21時と決めたわね。今度は、その枠に何を流すかの方よ。林田家が「今週末どこ行こう」と考え始めるその瞬間に、いま流れているのはどんな投稿かしら
宮本彩の表情アイコン
宮本
いまは体験の紹介ばかり流しています。屋島の景色やうどんを踏む様子は届いているのに、そこから先の一言が入っていません
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうね。枠は合っているのよ。いまのSNSは新しい順に並ぶだけじゃなくて、投稿した直後にどれだけ反応があったかで、その後の広がり方が変わるの。せっかく反応が集まりやすい時間に出しているのだから、その1本に「次にどこを押すか」を必ず入れましょう

投稿の時間はすでに決まっていた。コンテンツカレンダーを設計したときに、ペルソナの生活リズムから逆算して置いた枠だ。足りなかったのは、その枠に何を流すかだった。届ける時間を合わせても、届いた先で何をすればいいか示さなければ、行動は止まったままになる。

深夜便がコピーになる

事務所で宮本がホワイトボードに投稿コピーとタイムラインを書き出している場面

西園寺との通話を終えたあと、宮本がふいに顔を上げて目を輝かせた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
神谷さん、金曜の夜に投稿するなら、投稿の文章にフェリーのことを入れられませんか
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
フェリーのこと、ですか
宮本彩の表情アイコン
宮本
ジャンボフェリーの深夜便なら、金曜の夜に神戸港を出て土曜の朝に高松東港に着くんです。週末の弾丸旅ができます。しかも子どもが寝ている間に移動できるので、子連れのご家族にはすごくありがたいんですよ

宮本の目がさらに輝いた。椅子から立ち上がると、ホワイトボードに駆け寄り赤いマーカーを手に取った。

宮本彩の表情アイコン
宮本
金曜夜に投稿を出す、その日の深夜にフェリーが出る、土曜の朝には高松に着いている——この流れ、投稿のコピー(商品やお店の魅力を短くまとめた宣伝の文章)にそのまま使えませんか

宮本がホワイトボードに「金曜夜:投稿→深夜:フェリー出航→土曜朝:高松着」とタイムラインを描いた。投稿を見た直後にフェリーの予約ができる。投稿のタイミングと交通手段の出発時刻、そしてコピーが一本の線でつながる。

二人は投稿コピーの候補をいくつか書き出してみた。「週末は香川でうどん旅」「家族で行くフェリー弾丸旅」。どれも悪くはないが、どこか一般的で誰にでも当てはまりそうな言葉だった。誰に向けた言葉なのかが見えない。どの旅行先にも当てはまる文章では、林田家の指は止まらない。

宮本彩の表情アイコン
宮本
地元だと、夜のうちに動くのは当たり前なんです。子どもが寝ている間に船が着いてしまうので
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
それです。「子どもを寝かせたまま」——林田家の困りごとと、深夜便という解決策が、この一言に両方入っています。自分たちのことだと思ってもらえる一文でないと、指は止まりません

投稿コピーが決まった。「金曜の夜、子どもを寝かせたままフェリーに乗れば、朝にはうどん県」。ペルソナの課題——子連れの移動は大変——と、解決策——深夜便なら寝ている間に到着——が、一文に凝縮されている。読んだ瞬間に「あ、うちのことだ」と感じてもらえるかどうか。それが投稿コピーの勝負どころだった。

その週の金曜夜、新しいコピーで投稿した。コピーの下にはCTAを添えた。「プロフィールのリンクからツアー詳細へ」。週明け、予約が動き始めた。

作っただけでは届かない

リンク先の修正、CTAの追加、金曜夜の投稿枠に載せるコピーの刷新、撮影同意の前倒し設計。一晩で、やるべきことの全体像が見えた。

ホワイトボードには、今夜話し合ったことがすべて書き出されている。導線の修正、CTAの追加、金曜夜の投稿枠、コピー案、撮影同意の依頼。どれも特別な技術がいるわけではない。けれど、これらを「やるべきこと」として整理できたのは、ペルソナという軸があったからだ。

宮本彩の表情アイコン
宮本
小冊子も動画も作りました。でも、それだけじゃ人は動かないんですね。「ここを押してね」って言わないと、届かない
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
本当にそうですね。導線を整えて、タイミングを合わせて、コピーで背中を押す。制作が終わった後にも、やることがあるんです

窓の外はまだ暗い。けれど事務所の空気は、さっきまでの沈んだ重さが消えていた。ホワイトボードに並んだ項目は、一つひとつは小さな改善にすぎない。しかし、それらがペルソナという一本の軸でつながったとき、届けるための仕組みの全体像が浮かび上がった。宮本が「金曜の投稿から始めます」と静かに言った。


📌 覚えるポイント

  • SNSのプロフィールリンクが旅行会社のトップページ止まりだと、ツアー詳細に辿り着く前に離脱される。リンク先をツアー詳細ページへの直リンクに変えるだけで、申し込みへの距離が縮まる
  • 「プロフィールのリンクからツアー詳細へ」と投稿に一行書き足すだけで、見た人の行動が変わる。次に何をすればいいかを明示する誘導文——CTAを置かないと、興味は動きにならない
  • 投稿枠はすでにペルソナの生活動線から逆算して金曜の夜に決めてあった。効くかどうかは、その枠に何を流すかで決まる。投稿直後の反応が集まりやすい時間だからこそ、その1本にCTAを入れる価値がある
  • 交通手段の利便性は投稿コピーの武器になる。「金曜の夜、子どもを寝かせたままフェリーに乗れば、朝にはうどん県」は、ペルソナの課題と解決策を一文に凝縮している
  • 撮影同意は当日その場ではなく、申込時に確認する。フォームにチェック項目を入れれば、誰が同意していて誰が同意していないかが申し込みの時点で分かり、当日の混乱を防げる
  • 制作が終わった後にも、届けるための仕組みづくりが要る。導線の整備、タイミングの調整、コピーの作成は、コンテンツを届けるための仕組みであり、制作物そのものと同じくらい重要になる

📖 覚える用語

CTA(コール・トゥ・アクション)
ユーザーに次の行動を促す誘導文や誘導ボタン。「プロフィールのリンクからツアー詳細へ」のように、押してほしい場所を明示することで行動が変わる。
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
SNS導線の改善
リンクの差し替え自体は1本書き換えるだけでしたが、申し込みまでの操作は5回から2回(リンクをタップして詳細ページを開き、申し込みボタンを押すだけ)に減りました。投稿文には押してほしい場所を一行で添えています。今後は投稿を公開する前に、リンクの飛び先を実際にたどって確かめる手順を運用に入れます
投稿枠に載せるコピーの刷新
投稿枠は動画制作で決めた金曜21時のまま維持し、その枠に流すコピーをフェリーの深夜便に合わせた一文へ差し替えました。今回は文章の巧さではなく、読む人が実際に動ける時間と手段に合っているかを基準に選んでいます。効果は投稿ごとのクリック数と予約数を並べて確かめ、反応が弱ければコピーを差し替えて比べます
撮影同意の事前取得
申込フォームへのチェック項目の追加は旅行会社に依頼済みで、明日には反映される予定です。反映後、私が実際の申し込み画面で文言と表示を確認します。当日はチェックが入っていない組があった場合に備え、その組が写り込まない立ち位置で撮る段取りも決めておきます

まとめ

コンテンツは作っただけでは届かない。リンク先を正し、「ここを押してね」と明示し、届けたい人の生活リズムに合わせて投稿する。導線・タイミング・コピーを整え、権利処理も仕組みに組み込んで、初めてコンテンツは届けたい相手に届く。