モニターツアー実施コース
~第5話 船内うどんの味が、行きと帰りで違う~
モニターツアー1日目の午後に屋島山上を訪れた。やしまーるのガラス回廊で北村が子どもたちに源平合戦の歴史を語り、獅子の霊巌でかわらけ投げ体験を楽しんだ。雲が出て撤収の声もあったが、宮本の「もう少し待ちましょう」という判断が功を奏し、16時半に雲の切れ間から差した夕日がやしまーるのガラス回廊を琥珀色に染めた。計画にはなかった、想定外の最高のカットだった。
高松の商店街──ツアー2日目の朝
【シーン】初冬の午前、高松市内のアーケード商店街を自由散策する参加者の家族たち。子どもが讃岐うどんの店先を指さしてはしゃいでいる。親がお土産を選んでいる。昨日の体験の余韻が残るリラックスした雰囲気。 【ロケーション固定】kagawa_17_takamatsu_arcade に厳密準拠。第一参照=angle_evening.png、第二参照=master.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。kagawa/characters/宮本彩設定画像.png。 【人物】神谷(27歳男性、ネイビーのジャケット)が商店街の通路の中ほどを歩いている。宮本(24歳女性、ティールのウィンドブレーカー)が参加者の家族の近くで案内している。参加者の家族は後ろ姿またはシルエットで描写。 【構図】アーケードの奥行きを活かした構図。手前に参加者の家族の後ろ姿、中景に店先を見る子ども、奥にアーケードの白い金属屋根と採光帯が続く。 【小物】参加者の防寒着、店先の抽象化されたのぼり旗やPOP、まちなか観光案内所の木製パンフレットラック、レンガ大の小割り舗装。 【ロケーション整合】kagawa_17_takamatsu_arcade:(1)白系金属屋根パネル+頂部の採光帯1本+明るいグレーの鋼アーチトラス、(2)レンガ大の小割り舗装+テラコッタの直線帯、(3)まちなか観光案内所+木製パンフレットラック、(4)色面のみの抽象化されたのぼり旗・店頭POP・ワゴン、(5)車道による分断部で空が開ける+クスノキ+街灯。 【色調】初冬の午前の柔らかい自然光がアーケードの採光帯から差し込む。暖色系の店先の灯りとアーケードの白・グレーの対比。 【避ける】読める実テキスト、商標、参加者の顔、写真風の質感、特定商店街を同定できる固有形状。
ツアー2日目の朝。参加者の家族たちは、高松市内の商店街を自由に散策していた。白い金属屋根のアーケードの下を、子どもたちが走り回っている。讃岐うどんの店先を指さして「あのお店もうどんだ!」とはしゃぐ子ども。親が小さなお土産物屋の前で立ち止まり、棚に並んだ品を手に取っている。
昨日のさぬきビート体験と、やしまーるで見た夕日の記憶がまだ鮮やかだった。自由散策の時間は、参加者にとって「自分で街を歩く」体験だ。ガイドに案内される時間とは違い、自分の目で見て、自分の足で選んだ場所に立ち寄る。この「自分で選ぶ」感覚が、街への親しみを一段深くする。


高松東港──帰路のフェリー
午後、一行は高松東港に集合した。帰りのジャンボフェリーに乗り込む。初夏に神谷が初めてこの船に乗ったとき、瀬戸内海はまだ見知らぬ海だった。知らない街へ向かう期待と不安が入り混じっていた。いま、同じ船の同じデッキに立っている。でも景色の見え方がまるで違う。この半年で出会った人たち、一緒に走り回った街の記憶が、海の向こうの高松の街並みに重なっている。
フェリーが岸壁を離れた。高松東港のターミナルが少しずつ小さくなっていく。参加者の子どもたちがデッキの手すりにつかまり、遠ざかる港を見つめている。親たちがスマートフォンで最後の港の写真を撮った。
初冬の瀬戸内海は穏やかだった。波はほとんどなく、デッキに立つと冷たい海風だけが頬を撫でる。半年前、この船に初めて乗ったとき、神谷は緊張していた。知らない県に出向する不安と、新しい仕事への期待。あの日のデッキで見た瀬戸内海と、いま見ている瀬戸内海は、色も光も変わらない。変わったのは、神谷自身だった。
船内うどん──「ぴっぴおいしい!」
【シーン】ジャンボフェリー船内のうどんカウンター。売店のおばちゃんが子どもたちに丼を差し出している。子どもが嬉しそうにうどんを食べている。カウンター席の窓の向こうに瀬戸内海が広がる。 【ロケーション固定】kagawa_11b_ferry_udon に厳密準拠。第一参照=master.png、第二参照=angle_counter.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。kagawa/characters/売店のおばちゃん設定画像.png。 【人物】売店のおばちゃん(60代前半女性、エプロン姿)がカウンター越しに子どもに丼を渡している。神谷(27歳男性、ネイビーのジャケット)がカウンターの端で自然に微笑んでいる。子どもたちは後ろ姿またはシルエット。 【構図】カウンターを横から見た構図。手前におばちゃんと子ども、中景にカウンター席とスツール、奥の大きな矩形窓の向こうに瀬戸内海と初冬の空。キッチンの湯気がカウンター上に立ち上っている。 【小物】うどんの丼、割り箸、カウンター上の箸立て、メニュー看板(抽象化)、キッチンのレンジフード、大きな矩形窓から差し込む自然光。 【ロケーション整合】kagawa_11b_ferry_udon:(1)キッチンカウンター+茹で釜の蒸気+レンジフード、(2)ハイカウンター+スツール+箸立て、(3)大きな矩形窓から海が見える+明るい木目+グリーンのシート、(4)メニュー看板+券売機、(5)白い天井のダウンライト+露出した塗装パイプ。 【色調】船内の温白色照明と窓からの自然光が混ざる。うどんの湯気の温かみ。瀬戸内海のブルーと船内の木目・グリーンの対比。 【避ける】読める実テキスト、商標、施設名「ふねピッピ」、参加者の顔、写真風の質感。
デッキが冷えてきたころ、家族たちが船内のうどんカウンターに集まってきた。キッチンから湯気が立ち上り、出汁の香りが漂っている。カウンター越しに、売店のおばちゃんが子どもたちに丼を差し出した。

子どもがうどんを一口すすった。
「ぴっぴおいしい!」
神谷は自然に微笑んだ。行きの朝、この売店で子どもたちが覚えた「ぴっぴ」という言葉を、帰りの船でも自分から使っている。自分が初めてこの言葉を聞いたときは、意味さえ分からなかったのに。
別の子どもが丼を見つめて言った。「おいしい。行きのうどんと同じなのに、なんか違う」
隣にいた親が笑った。「体験した後だからだよ」
神谷はその言葉に立ち止まった。同じ船、同じうどん、同じ瀬戸内海。でもこの子が感じた「違い」は、神谷自身のこの半年間そのものだった。体験が、人の感じ方を変える。知れば知るほど、同じものの味が変わっていく。
船内アンケート──チャネル別効果の計測
うどんを食べ終えたころ、神谷と宮本はアンケート用紙を配り始めた。ツアーの効果を測るために、出発前から用意していたものだ。

アンケートの最初の質問は「このツアーを何で知りましたか?」だった。チャネル(小冊子、動画、SNS、口コミなど、情報がお客さんに届く経路のこと)ごとの効果を測るための設計だ。どの経路が参加者を連れてきたのかを知ることで、次にどこに力を入れるべきかが見えてくる。「測りたいこと」を先に決めて、そこから逆算して質問を作る。これがアンケート設計(チャネル別の効果測定や満足度調査のために、質問の内容と順番を考えること)の基本だ。
参加者が次々に回答を書き込んでいく。宮本が回収した用紙を手早く数えた。

【種類】概念図(チャネル別認知経路の比較図)。人物は描かない。 【構図】画面を横方向に2つの大きなカードで分割。左のカードに「小冊子」のアイコン(パンフレットのシルエット)と「3組(25%)」の数字。右のカードに「動画(SNS)」のアイコン(再生ボタン+スマホのシルエット)と「9組(75%)」の数字。右カードの下に補足として「うちInstagram #子連れ旅 経由 6組」の内訳。画面下段に「ペルソナの『発見:Instagram』を実証」のラベルをアクセントカラーで配置。右下隅に小さく注記「母数12組(傾向であって断言ではない)」。 【補助】タイトル「チャネル別認知経路の比較」、キャプション「どの媒体が参加者をフェリーに乗せたか」。 【色調】瀬戸内ブルーとウォームオレンジのアクセント。白い背景に明瞭な線画。数字部分は大きく太く強調。 【避ける】人物の顔、実在ロゴ、写真風の質感。
12組中9組が動画経由。しかもそのうち6組が、Instagramの「#子連れ旅」というハッシュタグから見つけてくれていた。ペルソナ(たった一人の理想のお客様像)を設計したとき、情報収集の経路に「Instagram」と書いた。その仮説が、いま目の前のデータで裏づけられている。
神谷はタブレットで西園寺にデータを共有した。西園寺がオンラインで画面を確認しながら、分析の視点を示す。



12組というデータは、統計的には小さな数字だ。だからこそ、「動画が良い」と断言するのではなく、「動画の方が多くの参加者を連れてきた傾向がある」という読み方をする。小さなデータを正直に扱うことが、次の施策の精度を上げる。


UGCの始まり──参加者がコンテンツを作る
アンケートを回収し終えたころ、ふと船内を見回した。カウンター席の参加者たちが、スマートフォンを手にSNSに投稿し始めている。子どもがうどんを踏んでいる昨日の写真。船内うどんの写真。やしまーるで見た夕日の写真。「#さぬきビート」のハッシュタグをつけている家族もいた。


制作者が計画した写真や動画ではない。体験した人自身が、自分の言葉と写真で発信している。これが前回、工房で目にしたUGC——ユーザー生成コンテンツの力だ。お客さん自身が作って発信する写真・動画・口コミなどが、公式の発信とは別の説得力を持つ。公式のコンテンツは内容を計画できるが、発信者はあくまで制作者側だ。一方、参加者自身の投稿は計画できない代わりに、友人や家族が撮った写真として信頼を持って受け取られる。見た人の「行ってみたい」を引き出す力が強い。しかも、この発信に広告費はかかっていない。ただし、投稿したくなる体験づくりと撮影同意のような下準備には手間がかかっているし、参加者の投稿を公式アカウントで紹介するときは投稿した本人の許諾が要る。何もせずに手に入るものではない。
【種類】概念図(UGCの循環図)。人物は描かない。 【構図】画面中央に4ステップの循環を円形に配置。上から時計回りに「体験する」(カメラアイコン)→「投稿する」(スマホ+SNSアイコン。ラベル:参加者のSNS投稿)→「見つける」(虫眼鏡+ハッシュタグアイコン。ラベル:新しい人がハッシュタグで発見)→「行きたくなる」(ハートアイコン)→「体験する」へ戻る。循環の外側左に「制作者が作るコンテンツ(計画的)」の小さなカード。循環の外側右に「参加者が作るコンテンツ(自発的=UGC)」の小さなカード。二つのカードから循環への矢印で、両方が循環を支えていることを示す。 【補助】タイトル「UGCが生む集客の循環」、キャプション「体験した人の投稿が、次の参加者を連れてくる」。 【色調】瀬戸内ブルーの濃淡とウォームオレンジのアクセント。白い背景に明瞭な線画。循環矢印は太めのラインで強調。 【避ける】人物の顔、実在ロゴ、写真風の質感。
参加者がSNSに投稿する。その投稿を見た別の人が「#子連れ旅」や「#さぬきビート」で検索して、ツアーの存在を知る。知った人が「行きたい」と思い、次のツアーに申し込む。そしてまた体験し、また投稿する。体験した人の投稿が、次の参加者を連れてくる循環だ。

数字だけでは見えないものがある。でも感覚だけでは伝えられないものもある。数字で傾向をつかみ、現場の感覚で確かめる。この二つを行き来することが、次の打ち手の精度を上げていく。
行きと帰りで違うのは、自分だった
夕方が近づき、船内が静かになった。子どもたちがうとうとし始め、親が毛布をかけている。神谷はカウンター席の窓から瀬戸内海を眺めていた。宮本が隣に座った。




窓の外で、瀬戸内海が夕日に染まり始めていた。行きと帰りで景色が違うのは、景色が変わったからではない。見ている自分が変わったからだ。出向の仕事として始めた香川での日々が、いつの間にか「この街を好きになった一人の人間」としての時間に変わっていた。
もっと多くの人に、この「違い」を体験してほしい。出向の成果物としてではなく、好きになった街への気持ちとして、神谷はそう思っている自分に気づいた。アンケートの数字も、参加者のSNS投稿も、すべてはそのためにある。仕事の動機と、個人の気持ちが一致している。この半年で一番大きく変わったのは、売上の数字でも施策の精度でもなく、神谷自身の中にある動機だった。
📌 覚えるポイント
- 「何でこのツアーを知りましたか?」という質問は、チャネル(情報がお客さんに届く経路)ごとの効果を測るための設計。測りたいことから逆算して質問を作るのが、アンケート設計の基本
- 動画(SNS)経由9組、小冊子経由3組。同じツアーでも媒体によって届く人数が違う。Instagramの「#子連れ旅」経由が6組と最も多く、ペルソナで立てた「発見:Instagram」という仮説と矛盾しない結果になった(母数12組のため、裏づけの強さは限定的)
- 母数12組のデータからは傾向を読み取れるが、「動画の方が必ず効果的」と断定はできない。小さなデータを正直に扱う態度が、次の施策の精度を上げる
- 参加者が自発的にSNSへ投稿し始めた。制作者が計画したコンテンツではなく、体験した人自身の言葉と写真がコンテンツになる。UGCは広告費をかけずに広がる一方、その前提となる体験づくりと、二次利用するときの許諾という手間が要る
- 行きと帰りで、同じうどんの味が違った。変わったのはうどんではなく、体験を経た自分のほうだった。体験の前後で人の受け取り方が変わることが、次のツアー設計を考える手がかりになる
📖 覚える用語
- アンケート設計
- チャネル別効果測定や満足度調査のための質問設計。「何を測りたいか」を先に決めて、そこから逆算して質問の内容と順番を組み立てる。
- チャネル別集客効果
- 帰りのフェリーで実施したアンケートの結果、動画(SNS)経由が9組、小冊子経由が3組でした。Instagram「#子連れ旅」経由が6組と最多で、ペルソナ設計時の仮説が裏づけられました。母数12組のため断言はできませんが、動画の集客力に明確な傾向が見えています
- 参加者のSNS投稿
- 帰りのフェリー内で、参加者がさぬきビート体験や屋島の夕日の写真をSNSに投稿し始めました。「#さぬきビート」のハッシュタグも使われています。制作者側が発信しなくても、体験者自身が新しいコンテンツを作る循環が始まりつつあります
- 自由回答の声
- 自由回答欄の記述は、申し込みを決めた理由と、体験後に人へ伝えたくなった理由の2種類に分かれていました。前者は移動のしやすさ、後者はさぬきビートの映像に集中しています。次のルートでは、案内文で移動のしやすさを、動画で人に見せたくなる場面を、それぞれ前面に出すことを提案します
