Shiny Academy

AI×デザイン実践コース

~第3話 写真は誰のものか~

前回のあらすじ

北村のリファレンス(お手本)をAIに渡して小冊子の叩き台を生成した。「なんか違う」という曖昧な感覚を「色が冷たい→瀬戸内の温かみがほしい」に変換するフィードバック(具体的な修正のお願い)の技術を学び、うまくいったプロンプト(AIへの指示文)をテンプレート(ひな型)として保存。0→1はAIが速く作り、1→10は人間が現場の目で仕上げるワークフロー(作業の流れ)が確立された。

いい写真が見つかった──でも使えるのか

宮本がノートPCの画面で風景写真を神谷に見せている

前回の叩き台づくりで方向性が決まり、次は各ページに載せる写真を選ぶ工程に入った。夏の午前、窓から差し込む自然光がせとうちマーレブルの事務所を明るく照らしている。コルクボードに留められた活動の予定表や写真が、日差しを受けてわずかに影を落としていた。神谷と宮本が会議テーブルを挟んで座り、取材で集めた写真フォルダをノートPCの画面に開いた。

宮本がマスタードイエローのフィールドノートを広げ、撮影場所と日時、被写体の特徴を1枚ごとに照らし合わせながら候補を挙げていく。屋島の風景、午後の光を受けた瀬戸内海、商店街の路地裏、港に停泊する船。どれも取材で丁寧に撮りためた写真だった。数十枚を順に確認していくなかで、宮本の手がふと止まった。

宮本彩の表情アイコン
宮本
この写真、すごくいい表情なんですけど……使えますかね?

宮本が差し出したのは、屋島の獅子の霊巌で撮影した1枚だった。背景に瀬戸内海のパノラマが広がり、手前に感動している旅行者の横顔が写り込んでいる。午後の斜めの光が横顔を照らし、構図も光も申し分ない。小冊子の表紙にも使えそうな力のある写真だ。しかし、その旅行者は通りすがりの観光客だった。撮影許可を取っていないどころか、会話すら交わしていない。もしこの写真を小冊子に載せれば、知らない人の顔が印刷物として世の中に広まることになる。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
いい写真ですけど……この人、撮影の許可を取っていないですよね
宮本彩の表情アイコン
宮本
そうなんです。たまたま写り込んでいた方で、声はかけていません
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
写真の選び方にもルールがあるかもしれません。西園寺さんに聞いてみましょう

撮った人の権利と、写っている人の権利

西園寺がオンライン画面越しに説明し、手前に神谷と宮本が座っている

神谷が東京の西園寺をオンラインでつないだ。先ほどの獅子の霊巌の写真を画面越しに共有し、撮影許可を取っていない旅行者が写り込んでいることを説明する。西園寺が穏やかに頷き、要点を整理し始めた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
写真には2つの権利が関わっているの。まず、写真を撮った人には著作権(ちょさくけん)があるわ。創作物を作った人に与えられる権利ね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
もう1つが、写っている人の肖像権(しょうぞうけん)ね。自分の顔や姿を勝手に撮影されたり公表されたりしない権利よ。この2つは、まったく別の権利なの
著作権(撮った人の権利)と肖像権(写っている人の権利)の違いを示す整理図

撮った人の権利と、写っている人の権利。2つの異なる権利が、1枚の写真に同時に重なっている。宮本の写真は自分が撮ったものだから著作権の問題はない。しかし、写っている旅行者の同意は得ていない。肖像権の観点では、この写真を商用の印刷物に使うことはできなかった。写真の良し悪しとは別の次元で、使えるかどうかが決まる。

宮本彩の表情アイコン
宮本
撮った人と写っている人で、考えなきゃいけない権利が別々にあるんですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうなの。特に子どもが写っている場合は、保護者の同意が必要よ。観光地の取材写真では、通りすがりの方が写り込むことが多いから、この点はいつも意識しておいてね
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
自分が撮った写真でも、写っている人の許可がなければ使えない。著作権と肖像権の両方を確認する必要があるんですね

著作権は「作った人」の権利。肖像権は「写っている人」の権利。どちらか一方だけクリアしても足りない。両方を確認して初めて、その写真は「使える写真」になる。目に見えない権利だからこそ、使う前の確認を習慣にしておくことが大切だった。神谷がノートPCに確認項目をメモし始めた。「著作権——撮った人の許可があるか」「肖像権——写っている人の許可があるか」たった2行の確認だが、この手順があるかないかで、あとから起きるトラブルの大きさが変わる。

「フリー素材」は「自由に使える」ではない

神谷がノートPCでフリー素材サイトの利用規約を確認し、宮本が驚いている
宮本彩の表情アイコン
宮本
じゃあ、肖像権の心配がないフリー素材を使えばいいですよね
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
フリー素材ですか。いくつかサイトを確認してみましょう

宮本の提案はもっともに思えた。フリー素材なら人物が写っていないものも多く、肖像権の問題を回避できる。しかし「フリー」という言葉には落とし穴があった。神谷がノートPCでいくつかのフリー素材サイトを開き、利用規約のページを確認していった。

1つ目のサイトは「個人利用のみ」と書かれていた。2つ目は「クレジット表記必須」。3つ目は「加工禁止」。4つ目は「商用利用不可」。同じ「フリー」を掲げていても、使用条件はサイトごとにまったく異なっていた。無料だから何にでも使えるという思い込みが、いかに危ういかがはっきり見えた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
え、サイトによってこんなに条件が違うんですか?
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
同じ「フリー」と書いてあっても、できることがサイトごとに全然違いますね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
「フリー」は「無料」という意味であって、「自由に使える」という意味ではないわ。ここを混同してしまう人が、本当に多いの

西園寺がフリー素材の商用利用条件について、確認すべき3つのポイントを挙げた。1つ目、商用利用が可能かどうか。2つ目、クレジット表記(作者名の記載)が必要かどうか。3つ目、加工が許可されているかどうか。この3点は最低限の確認事項であり、確認を怠って使えば、公開後に使用停止を求められるリスクがある。確認の手間を惜しんだ結果、制作物全体を作り直す事態にもなりかねない。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
フリー素材を使うときは、必ず利用規約を確認してね。特に商用利用の可否、クレジット表記の要否、加工の可否の3点は最低限チェックしましょうね
宮本彩の表情アイコン
宮本
「フリー」は「無料」であって「自由」ではないんですね。知らずに使っていたら大変なことになるところでした

「使わない」を選ぶ勇気

写真・素材の権利チェックフロー。著作権・肖像権・利用規約を確認し、迷ったら「使わない」を選ぶ

著作権、肖像権、フリー素材の利用規約、AI生成画像の権利。今日出てきた確認事項は多い。西園寺が、これらをまとめたチェックフローとして整理した。写真や素材を使うときの判断基準を、制作の初期段階でルール化しておく。迷いが生じたときに立ち戻れる基準があれば、チームの判断がぶれない。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
写真や素材を使うときは、3つの確認をしましょう。1つ目、撮った人の著作権はクリアか。2つ目、写っている人の肖像権はクリアか。3つ目、フリー素材なら利用規約の条件を満たしているか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そして、判断に迷ったら「使わない」を選ぶ。これを制作の初期段階でチームのルールとして決めておきましょうね

「使わない」を選ぶことは、消極的な判断ではない。権利の確認が不十分なまま素材を使い続ければ、公開後にトラブルが起きるリスクがある。小冊子を回収し、刷り直し、関係者に謝罪する——そうした事態を未然に防ぐのが、最初のルール化だ。一枚ごとに迷う必要がなくなり、チーム全員が同じ基準で判断できる体制を整えることが、制作を守ることにつながる。

宮本彩の表情アイコン
宮本
最初にルールを決めておけば、あとで困らないですね。これは使える、これは使えない、とすぐにわかります
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
チーム全員が同じ基準で判断できるようになれば、確認の手間も減りますね

窓の外では夏の陽がわずかに傾き始めていた。テーブルの上にはノートPCの確認メモ、宮本のフィールドノート、そして使用を見送った獅子の霊巌の写真データ。今日は1枚も写真を決められなかったように見えるが、「なぜ使えないのか」「どうすれば使えるのか」の基準を手に入れたことが、一番の収穫だった。判断基準ができたことで、次からの選定作業は格段に速くなるはずだ。

宮本彩の表情アイコン
宮本
次はレイアウトですね。写真と文章をページにどう並べるか、ですよね

📌 覚えるポイント

  • 他人の創作物を使うには、原則として許可がいる。写真を撮った人、文章を書いた人、音楽を作った人——作った人に権利がある、という前提から始める
  • 人が写っている写真は、撮影も公表も本人の許可がいる。子どもが写っているなら、保護者の同意を取ってから使う
  • 自分で撮った写真でも、それだけでは使えない。「撮った人」の権利と「写っている人」の権利は別々に存在するので、両方を確認する
  • 「フリー素材」と書いてあっても、何をしてもよいという意味ではない。使う前に利用規約を開き、個人利用のみか、クレジット表記は要るか、加工してよいかを一つずつ確かめる
  • AI生成画像にも現行の著作権法が適用され、著作物になるかは「人の創作的な関与」の度合いで決まる。加えて既存の作品に似ていれば侵害の問題が生じうるし、商用に使えるかは生成AIサービスの利用規約で変わる。この3点が確認できないときは「使わない」を選ぶ

📖 覚える用語

著作権(ちょさくけん)
創作物を作った人に与えられる権利。写真・文章・音楽・動画等に発生する
肖像権(しょうぞうけん)
自分の顔や姿をみだりに撮影・公表されない権利。特に子どもは慎重な配慮が必要
フリー素材の商用利用条件
「フリー=無料」であって「自由」ではない。利用規約(個人利用のみ・クレジット表記必須・加工禁止等)の確認が必須
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
写真の著作権・肖像権の確認
取材写真に写り込んだ通りすがりの観光客の肖像権を確認。撮影許可のない人物写真は商用利用不可と判断し、代替の写真を選定する方針を決定。
フリー素材の利用規約チェック体制の構築
フリー素材の「商用利用可否・クレジット表記の要否・加工可否」の3点チェックを制作フローに組み込み。サイトごとの条件差を確認済み。
AI生成画像の権利確認ルールの策定
AI生成画像にも現行の著作権法が適用され、著作物になるかは人の創作的関与の度合いで決まるため、使用する際は生成AIサービスの利用規約を個別に確認するルールを策定。判断に迷う場合は「使わない」を選ぶ基準を設定。

まとめ

著作権、肖像権、フリー素材の利用規約。写真や素材を使う前に確認すべき権利は複数ある。「いい写真」と「使える写真」は同じではない。判断に迷ったら「使わない」を選ぶ——この基準を最初に決めておくことが、制作を守る力になる。