Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第1話 動画は"時間のデザイン"~

前回のあらすじ

印刷が完了した500部の小冊子について、ペルソナの行動動線に基づいて配置場所の優先順位を決めた。高松東港のフェリーターミナル、さぬき体験工房、ホテルのロビーに順に設置し、場所ごとに異なるQRコードを割り当てて読み取り数で配置効果を測定する仕組みを設計した。設置先からの反応も少しずつ届き始めている。

次は「目に飛び込むメディア」

事務所のミーティングスペースで神谷と宮本がオンラインの西園寺と動画制作について話し合っている

夏の終わりが近づく8月下旬。小冊子の設置先から、少しずつ反応が届き始めていた。高松東港のフェリーターミナルに置いた分は、週末に数冊ずつ減っている。さぬき体験工房の藤原さんからは「パンフレット置きに入れたら、体験に来たお客さんが持って帰ってくれとる」と連絡があった。ホテルのロビーに置いた分も、フロントスタッフから「お子さん連れのお客様が手に取っていかれます」と報告が来ていた。

そのタイミングで、西園寺からオンライン会議の招集が入った。せとうちマーレブルの事務所で、神谷と宮本がノートPCの前に座る。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
小冊子の設置、順調に動いているみたいね。QRコードの読み取り数も、フェリーターミナルが一番多い。ペルソナの動線どおりの結果ね
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
はい。まだ数は小さいですが、手に取ってくれる人がいるのは嬉しいです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
小冊子は「手に取ってもらう」メディアだったでしょう。次は「目に飛び込んでくる」メディアをやりましょう。動画よ
宮本彩の表情アイコン
宮本
動画ですか。SNSで流れてくる観光PR動画は見たことがあります。でも、自分たちで作れるものなんでしょうか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
スマートフォン1台あれば撮影はできるの。ただ、撮る前に考えなきゃいけないことがあるわ。今日はそこから始めましょう

スライドショーではダメな理由

小冊子は「空間のメディア」、動画は「時間のメディア」という違いを示す対比図

動画と聞いて、神谷はふと思いついたことを口にした。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
小冊子の写真とキャッチコピーを並べて、BGM(動画の後ろで流れる音楽)をつけてスライドショーにすればいいんですよね。素材はもうあるわけですし
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
その発想は自然だけど、ちょっと待って。ホワイトボードに2つの図を描くから見てね

西園寺が画面の向こうでホワイトボードに図を描き始めた。左側に四角い枠を描いて「小冊子」と書き、右側に横向きの矢印を描いて「動画」と書く。神谷と宮本がノートPCの画面に身を乗り出して見入る。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
小冊子は、ページを開いた瞬間に全体が目に入るでしょう。読者が自分の好きな順番で読めるの。写真から見てもいいし、地図から見てもいい。これが「空間のメディア」ね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
でも動画は違うわ。最初の3秒で見るか見ないかが決まるの。時間軸に沿って流れていくから、見る人は順番を選べない。だから作り手が「何を最初に見せるか」「何秒で切り替えるか」「どこで終わるか」を設計しなきゃいけない。これが「時間のメディア」よ
宮本彩の表情アイコン
宮本
ああ、それは実感あります。TikTokとかYouTubeのショート動画って、最初がつまらないとすぐスワイプしてしまうんですよね。自分もそうです
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
確かに。スライドショーは写真を順番に流すだけで、「何を最初に見せるか」を設計しているわけじゃないですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう。動画は「見せる順番」をデザインするメディアなの。この「時間設計」(じかんせっけい)が、小冊子との一番大きな違いよ

3つの構成型を選ぶ

動画の構成3型(起承転結型・問題提起型・体験共有型)を比較し、体験共有型にチェックが付いた図

西園寺がホワイトボードの図を描き替える。今度は3つの列が並んだ。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ここで3つの動画を思い浮かべてみて。まず、映画やドラマね。始まりがあって、展開があって、クライマックスがあって、結末に向かうでしょう。観光地の歴史を語るような動画は、この流れが合うわ。これを「起承転結型」と呼ぶの
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
次に、テレビの情報番組。「知ってましたか? 香川でうどんを足で踏むんです」みたいに、疑問や意外な事実から始めて答えに導くでしょう。知識を伝えたいときに使う構成ね。これが「問題提起型」よ
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
最後に、SNSでよく見る「行ってみた」「食べてみた」の動画。実際の体験をそのまま見せるの。これが「体験共有型」ね

神谷は3つの型をノートに書き写した。映画のような起承転結型、テレビの情報番組のような問題提起型、SNSの「行ってみた」動画のような体験共有型。身近な例と結びつくと、すんなり頭に入る。西園寺が神谷に問いかけた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
さぬき体験工房のうどん踏み体験を60秒で伝えるとしたら、どの型が合うと思う?
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
体験共有型……でしょうか。「やってみた」が一番自然です。うどんを踏む体験は、説明するより見せたほうが伝わると思います
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうね。体験そのものに力がある題材は、体験共有型が合っているわ

宮本がうなずきながら補足した。普段からSNSで観光系の動画をよく見ている宮本には、西園寺の説明が実感を伴って響いたようだ。

宮本彩の表情アイコン
宮本
SNSで流れてくる旅行動画も、「行ってみた」系がいちばん最後まで見ちゃうんですよね。テロップで説明されるより、実際に楽しそうにしている映像のほうが「自分も行きたい」ってなります
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいところに気づいたわね。でも「体験共有型」を選んだだけではまだ足りないの。大事なのは、誰に向けて作るか。ペルソナ(たった一人の理想の視聴者像)が動画でもそのまま出発点になるのよ

構成型を選ぶだけで終わりではない。西園寺が続ける。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
林田家のお母さんが金曜の夜にスマートフォンをスクロールしている場面を想像してみて。子どもを寝かしつけた後、ソファでSNSを見ている。そのとき最初の3秒で何が目に入れば、指が止まる?
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
子どもが楽しそうにしている映像……でしょうか。自分の子どもと重ねて「うちの子にもやらせてみたい」と思うかもしれません
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう。構成型の選択も、冒頭に何を置くかも、動画の長さも、全部ペルソナの視聴シーンから逆算して決めるの。観光マーケティングで設計したペルソナが、動画でもそのまま出発点になるのよ

1本に全部入れようとしない

オンライン会議の途中、事務所のドアが開いて北村が入ってきた。

北村裕の表情アイコン
北村
何の打ち合わせだ?

会議テーブルの空いたスタッキングチェアに座り、ノートPCの画面を覗き込む北村に、西園寺が画面越しに動画制作の話だと説明すると、北村の目が光った。

北村裕の表情アイコン
北村
動画を作るのか。それはいいな。でも、うどん踏みだけじゃもったいない。この土地には長い歴史があってね。屋島の源平合戦、那須与一の扇の的、それから獅子の霊巌から見る瀬戸内海の夕日。そういうのも全部伝えたいんだが
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
北村さんのお気持ちはよくわかります。でも、1本の動画に全部入れようとすると、どれも伝わらなくなるんです
北村裕の表情アイコン
北村
……全部入れたら駄目なのか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
小冊子は1冊にまとめることができましたよね。ページをめくれば全部読めますから。でも動画は60秒しかありません。歴史と体験と景色を全部詰め込むと、1つ1つが20秒ずつになって、どれも印象に残らなくなってしまいますよ

北村が腕を組んで考え込む。事務所の壁のコルクボードには、小冊子の設置先一覧やQRコード読み取りの集計メモがピンで留めてある。北村は、あの小冊子に込めた思いをすべて動画にも載せたいのだ。

北村裕の表情アイコン
北村
……じゃあ、歴史は伝えられないのか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいえ、伝えられますよ。だから複数の動画を作るんです。「うどん体験編」「歴史と夕日編」「屋島散策編」。1本1つのメッセージに絞れば、それぞれがちゃんと届きますよね
北村裕の表情アイコン
北村
なるほど……。1本に詰め込むんじゃなくて、分ける。小冊子とは違うやり方なんだな
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
北村さん、小冊子を作るときも最初は「全部入れたい」とおっしゃっていましたよね。動画でも同じ壁が出てくるんですね
北村裕の表情アイコン
北村
……確かにそうだな。まず一番伝えたいものから始めよう。うどん体験の動画、楽しみにしとるよ

動画制作の全体像

動画制作の全体フロー(台本→撮影→編集→テロップ→BGM→字幕→公開)を示す工程図

北村は自分のデスクに戻っていった。北村が席を外したあと、西園寺が動画制作の全体像を整理した。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
動画を1本仕上げるまでの工程を見ておきましょう。大きく分けて7つのステップがあるの。台本、撮影、編集、テロップ(動画の画面に表示する文字)、BGM、字幕、そして公開
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
小冊子のときは、企画、原稿、デザイン、入稿、印刷、配置、でした。工程の数は似ていますね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうね。でも動画には小冊子にはない工程があるわ。BGMの選定、字幕の翻訳、それから権利の確認。特に音楽と映像の権利は、後から問題になると公開できなくなることもあるの。その話はまた別の回でじっくりやりましょう
宮本彩の表情アイコン
宮本
7つもあると大変そうですが、1つずつ進めていけばいいんですよね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
その通りよ。まずは台本から始めましょう。台本は動画の設計図ね。撮影に入る前に「何を、何秒で、どう見せるか」を紙の上で決めるの。次回はその台本づくりをやりましょうね

オンライン会議を終えて、神谷は事務所の窓の前に立った。午後の光が高松の街並みを照らしている。引き違い窓の向こうに中層ビルの屋根が並び、その先に瀬戸内海の水平線がかすかに見える。テーブルの上には完成した小冊子が数冊並び、その横でノートPCの画面にはまだ会議のウィンドウが残っている。

小冊子を作る間に、自分の中に香川の記憶が溜まっていた。潮の匂い。さぬき体験工房で見た、工房の主の無口な背中。工房で音楽がかかった瞬間に、体験に来ていた子どもが踊り出したこと。あの光景は60秒の動画では全部は伝えきれない。

でも、全部を詰め込む必要はない。あの子どもが踊り出した瞬間だけは、伝えたい。60秒でいい。たった60秒に、あの瞬間を閉じ込めたい。

スマートフォンで見た60秒の動画に心を動かされて、「ここに行ってみたい」と思う人がいるかもしれない。小冊子は「手に取ってもらう」メディアだった。動画は「目に飛び込んでくる」メディアだ。同じ素材を、時間軸でデザインして届ける。


📌 覚えるポイント

  • 小冊子は「空間のメディア」。1枚で全体が見え、読者が好きな順番で読める。動画は「時間のメディア」。最初の3秒で見るか見ないかが決まる
  • 動画は「見せる順番」をデザインする。何を最初に置き、何秒で切り替え、どこで終わるか。この時間設計が視聴者の行動を左右する
  • 動画の構成には3つの型がある。起承転結型(ストーリーを描く)、問題提起型(「知ってましたか?」で引く)、体験共有型(「やってみた」で見せる)。題材とターゲットに合った型を選ぶ
  • 1本の動画に全部入れようとしない。歴史も体験も景色も詰め込むとどれも伝わらない。1本1メッセージに絞り、複数本に分ける
  • ペルソナは動画でも出発点になる。観光マーケティングで設計したペルソナの視聴シーン(いつ・どこで・どんな気分で見るか)から、構成型・冒頭カット・動画の長さを逆算する
  • 動画制作は「台本→撮影→編集→テロップ→BGM→字幕→公開」の7ステップ。まず台本で「何を、何秒で、どう見せるか」を設計してから撮影に入る

📖 覚える用語

時間設計
動画は「見せる順番」をデザインするメディア。何を最初に見せるか、何秒で切り替えるか、どこで終わるかを設計すること。静止画(空間のメディア)とは異なり、時間軸の設計が動画制作の出発点になる
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
動画は「時間のメディア」
小冊子(空間のメディア)とは異なり、動画は時間軸に沿って流れるため「見せる順番」の設計が必要。最初の3秒で視聴者が見続けるかどうかが決まる。スライドショーではなく、時間設計を行った動画を制作する方針を確認。
うどん体験動画は「体験共有型」で制作
構成3型(起承転結型・問題提起型・体験共有型)のうち、さぬき体験工房のうどん踏み体験には「体験共有型」が最適と判断。ペルソナ(林田家のお母さん)の視聴シーンから冒頭カットを逆算する方針。
動画は複数本に分けて制作
北村さんの「歴史も伝えたい」という要望に対し、1本に全部入れるのではなく複数本に分ける方針を共有。うどん体験編を最初に制作し、歴史・景色は別の動画として順次取り組む。

まとめ

小冊子は「手に取ってもらう」メディアだった。動画は「目に飛び込んでくる」メディアだ。同じ素材でも、時間軸に乗せた瞬間に「何を最初に見せるか」が問われる。最初の3秒で指を止め、60秒で心を動かす。その設計が、動画制作の出発点になる。