Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第2話 台本をAIと一緒に書く~

前回のあらすじ

小冊子は「手に取ってもらう」メディア、動画は「目に飛び込んでくる」メディアだと学んだ。動画は最初の3秒で見るか見ないかが決まり、時間軸に沿って「見せる順番」を設計する必要がある。構成3型(起承転結型・問題提起型・体験共有型)のうち、さぬき体験工房のうどん踏み体験には「体験共有型」が最適と判断した。動画制作の7ステップを整理し、「まずは台本から」と次の工程に進むことにした。

映像の設計図

事務所で神谷がノートに構成台本の枠を手描きし、宮本と画面越しの西園寺が見守っている

前回のオンライン会議で「まずは台本から」と決めた翌朝。せとうちマーレブルの事務所では、会議テーブルを囲んで神谷と宮本がスタッキングチェアに座り、ノートPCの画面越しに西園寺とオンラインでつながっていた。テーブルの端には完成した小冊子と取材メモのファイルが広げてある。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
台本を作ると前回決めましたが、映画みたいにセリフを書くんでしょうか。60秒の動画にどこまで書けばいいのか、見当がつきません
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
安心して。動画の台本はセリフの原稿じゃないの。たとえばこういうメモを書くの。映像は『子どもの手元のアップ、粉まみれの指』、5秒。音声は『工房の環境音と子どもの笑い声』。これだけで、何を撮るべきか、何秒流すか、どんな音を拾うかがわかるでしょう
宮本彩の表情アイコン
宮本
映像の内容と秒数と音声が1セットになっているんですね。小冊子でいうところのページ構成みたいなものですか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
近いわね。こういう枠をカットごとに並べたものを構成台本、英語ではストーリーボードと呼ぶの。1枚に1カット、映像の設計図よ

西園寺の説明で、1カットの書き方がイメージできた。映像の内容と秒数と音声を1つの枠に記入し、その枠を並べていけば、60秒の動画全体の流れが紙の上に見えてくる。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
まずは手で描いてみましょう。ノートに四角い枠を6つ並べて、うどん踏み体験を60秒で見せるとしたら何をどの順番で映すか考えてみて

神谷がノートを広げ、横長の四角い枠を6つ並べて描いた。最初の枠に「子どもが笑っている」、次の枠に「うどんを踏んでいる」、3つ目に「出来上がったうどんを食べる」。小冊子の取材で見た場面はいくつも浮かぶが、並べてみると順番がしっくりこない。60秒という時間の中で何を先に見せて何を後にするか——紙の上で止まっている写真と違い、動画は流れの中で見せるメディアだ。

枠に書いた内容は断片的で、秒数も音声もまだ空欄のままだ。60秒を6つのカットに割ると1カットあたり10秒。しかしすべてのカットが同じ長さでは単調になる。冒頭は短くインパクトを出し、中盤はやや長めに見せ、ラストは余韻を残す。時間配分もまた設計のうちだ。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
映したい場面は浮かぶんですが、どの順番がいいのかがわかりません。最初に何を持ってくるかで印象がまったく変わりそうです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう、順番を決めること自体が動画の設計なの。悩んでいい。でも自分一人で悩まなくていいわ。ここでAIを使いましょう

AIに3パターン出させる

構成台本のフォーマット図。横に6枠が並び、各枠にカット番号・映像内容・秒数・音声の記入欄がある

西園寺の提案で、AIに構成台本の原案を作らせることにした。神谷がまず素材を整理する。小冊子を作るときに蓄積した取材メモ。さぬき体験工房やフェリー、屋島で撮った写真のリスト。小冊子で使ったキャッチコピー。これらをひとつのファイルにまとめてAIに渡す準備をする。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
プロンプト(AIへの指示文)を組み立てるとき、4つの要素を意識してね。目的——何のための動画か。対象——誰に見せるか。条件——60秒、体験共有型、禁止事項。形式——カット表で出力する。小冊子のときと同じ枠組みが使えるわ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
目的、対象、条件、形式。小冊子のキャッチコピーを作ったときと同じ4つですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうよ。ただし「対象」をもう少し具体的にしてみて。「30代の子育て家庭」だと漠然としすぎるの。ペルソナ(たった一人の理想の視聴者像)カードに書いた属性をそのまま入れましょう。それと、条件のところに「案を3つ」と書いておくのよ。1案だけ返ってきても、それが良いのか悪いのか比べようがないでしょう

神谷がプロンプトを打ち込む。目的は「さぬき体験工房のうどん踏み体験の魅力を伝えるSNS動画」。対象は「神戸在住の35歳のお父さんと33歳のお母さん、4歳の子ども。予算5万円以内で家族旅行を計画中」。条件は「60秒、体験共有型、冒頭でインパクトを出す。構成の異なる案を3つ出す」。形式は「カット番号・映像内容・秒数・音声の表形式で出力」。ペルソナカードの具体的な属性をそのまま落とし込んだプロンプトが完成した。

西園寺が画面越しに確認した。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ペルソナの具体的な属性——年齢、住まい、交通手段、予算、子どもの年齢——をプロンプトに入れることで、AIの提案がぐっと的を絞った内容に変わるの
AIが提案した3つの構成パターン。時系列型・ハイライト型・問いかけ型が並び、ハイライト型にチェックが入っている

AIが3パターンの構成案を返してきた。1つ目は「時系列型」。フェリーに乗るところから始まり、うどん体験、屋島の景色、夕日までを1日の流れで順に追う。2つ目は「ハイライト型」。うどん踏み体験で子どもが音楽に合わせて踊り出す瞬間を冒頭に置き、強いインパクトから入る構成。3つ目は「問いかけ型」。「香川でしかできない体験、知っていますか?」という問いかけから始めて視聴者を引き込む。

宮本彩の表情アイコン
宮本
2番目のハイライト型がいいと思います。あの工房で子どもが踊り出した瞬間、その場にいた全員の空気が変わったんです。あれを最初に持ってくるのがいちばん強いと思います
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
林田家のお母さんが子どもを寝かしつけた後にスマートフォンを開く場面を想像すると……確かに、子どもが楽しそうに踊っている映像がいちばん目を引きますね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いい着眼点ね。1案に固執せず比較して選ぶ。AIに複数パターンを出させる意味はここにあるの

「そんなに広くないです」

ハイライト型に決まり、AIが出したカットの詳細を確認していく。しかし、カット説明を順番に読んでいた宮本が画面をじっと見つめ、首を傾げた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
あの、このカットに「体験工房の広いフロアで大人数が踊る映像」って書いてあるんですが……実際のさぬき体験工房はそんなに広くないです。足踏みのスペースは6名が限度で、大人数が一度に踊れるような広さはないんですよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
確かに、写真だとわかりにくいですが、実際はかなりコンパクトな空間でしたよね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
これがAIに台本を任せきりにしてはいけない理由ね。AIは場所の広さも設備の制約も知らないの。現場を知っている人が台本と実態を照らし合わせて、合っていないカットを直す工程が欠かせないわ

宮本の指摘はそれだけではなかった。カットの順序にも問題があった。

宮本彩の表情アイコン
宮本
それと、うどんの生地をこねるカットが踏むカットの後に来ているんですが、これだと見ている人に工程の流れが伝わりません。実際はこねてから踏む。この順番を入れ替えないと、初めて見る人は何をしているのかわからないと思います
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうね。AIが出した案を土台にして、現場を知っている人が直す。小冊子を作ったときも同じ流れだったでしょう。AIが最初の形を作り、人間がそれを仕上げるの

3人でカットの内容と順序を一つずつ確認し、修正を重ねた。「広いフロアで大人数が踊る」は「6名が向き合える体験スペースで足踏みをする」に書き替えた。カットの順序はこねる→踏む→音楽が始まる→踊り出す→食べる→笑顔に並べ直した。AIが書いた原案が、宮本の現場知識で実際に撮影できる台本に変わっていく。

修正の過程で神谷が気づいたことがあった。AIは60秒を均等に10秒ずつ6カットに割っていたが、宮本の修正を入れると、冒頭の「踊り出す瞬間」は3秒でインパクトを出し、「こねる」と「踏む」の工程はやや長めに見せ、「食べる→笑顔」は短くリズムよく終わらせたほうがいい。秒数の配分もまた、現場を知っている人の感覚が頼りだった。

撮影のチェックリスト

修正を終えた台本をノートの上で眺めながら、神谷がふと口を開いた。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
台本は設計図であって完成品じゃないんですね。実際に撮影現場に行ったら、台本にないことが起きて、また変わることもありますか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
もちろん。現場に行けば光の具合も違うし、予想していなかった瞬間が撮れることもあるわ。でも設計図がなければ何を撮ればいいかわからないでしょう。撮り忘れも起きる。台本は「撮影のチェックリスト」でもあるの
宮本彩の表情アイコン
宮本
チェックリスト……確かに、撮影当日にその場で考えていたら、絶対に何か忘れますよね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうでしょう。カット表に書いてある場面を現場で順番に撮っていけば、最低限の素材は押さえられるわ。完成品じゃなくていい。「これだけは撮る」というリストがあること自体に意味があるの

神谷は小冊子を作ったときのことを思い出した。あのときも最初にページ構成を紙に書き出してからデザインに入った。完成品は途中で何度も変わったが、最初の設計図がなければ何をどこに入れるか決められなかったはずだ。台本も同じだ。撮影の前に方向性を固めておくことで、現場では「撮る」ことに集中できる。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
小冊子のときも、最初に決めたページ構成どおりには進みませんでした。でも構成を先に決めたおかげで、途中で「何が足りないか」がわかったんです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
その通りね。台本があれば、現場で予想外のことが起きても「台本のどこを変えるか」で判断できるわ。何もないまま撮影に行くと、撮った映像をどう並べるかで途方に暮れることになるの

60秒に収めた設計図

夕方の事務所で神谷と宮本が完成した手描きの構成台本を確認している

午後の光が傾きかけた頃、修正を重ねた台本がようやく形になった。窓の外の空が薄い橙色に染まり始めている。コルクボードに貼られた観光マップが、斜めの光に照らされて色づいて見えた。ノートの上に手描きのストーリーボードが並んでいる。6つの枠のそれぞれに映像の内容が書き込まれ、横に秒数と音声のメモが添えてある。

60秒の中に収めた流れはこうなった。冒頭カットは「子どもが足踏みの音楽に合わせて笑い出す瞬間」で3秒。そこから生地をこねる手元のアップが8秒、踏み始める足が7秒、音楽のリズムに乗って自然に体が揺れ始める瞬間が12秒、出来上がったうどんをみんなで食べる笑顔が10秒。最後にさぬき体験工房の外観と場所の情報で5秒。残り15秒は予備として現場で調整する。

ペルソナの林田家のお母さんが金曜の夜にスマートフォンをスクロールしている。その画面に、冒頭の子どもの笑顔が飛び込んでくる。「うちの子と同じくらいの年齢だ」と思って指が止まる——その瞬間を設計するために、この台本がある。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
冒頭のカット、ここが勝負ですね。あの笑顔で指が止まれば、60秒を最後まで見てもらえるはずです
宮本彩の表情アイコン
宮本
あの工房の空気感が映像で伝わるといいですね。撮影場所の下見、私が段取りしますね。工房の藤原さんにも連絡しておきます

宮本がマスタードイエローのリングノートを開き、「工房下見・藤原さん連絡・光の入り方確認」と書き込んだ。台本ができたことで、次にやるべきことが具体的に見えてきた。設計図を手に、次はいよいよ現場に出る。


📌 覚えるポイント

  • 構成台本(ストーリーボード)は映像の設計図。動画の台本はセリフの原稿ではなく、「何が映っているか」「何秒映すか」「どんな音が入るか」をカット単位で設計するもの
  • AIに台本を作らせるときは、取材メモ・写真リスト・キャッチコピーなどの素材をまとめて渡し、複数パターンを出させる。1案に固執せず比較検討する
  • プロンプトの4要素(目的・対象・条件・形式)は動画でも同じ。ペルソナの具体的な属性をプロンプトに入れることで、AIの提案が的を絞った内容に変わる
  • AIの台本は現場で直す。AIは場所の広さも設備の制約も知らない。現場を知っている人が台本と実態を照らし合わせ、合っていないカットの内容や順序を修正する工程が必須
  • 台本は完成品ではなく設計図。撮影現場で変わることもあるが、設計図がなければ撮り忘れが起きる。台本は「撮影のチェックリスト」として機能する
  • ペルソナの視聴シーンから冒頭カットを逆算する。「誰が・いつ・どんな状況で見るか」を想像し、その瞬間に指が止まるインパクトを台本の冒頭に設計する

📖 覚える用語

構成台本(ストーリーボード)
「何を・何秒で・どう見せるか」の設計図。カットごとに映像の内容・秒数・音声を記載し、撮影と編集の指針になる。映画のセリフ台本とは異なり、映像の並び順と時間配分を設計することが目的
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
構成台本(ストーリーボード)を作成
動画の台本はセリフではなく、カットの並び順と秒数を決める映像の設計図。手描きで枠を並べ、映像内容・秒数・音声を記入する形式で構成台本を作成した。
AIで3パターン生成しハイライト型を採用
取材メモ・写真リスト・キャッチコピーをAIに渡し、時系列型・ハイライト型・問いかけ型の3案を比較検討。うどん踏み体験の踊る瞬間を冒頭に置くハイライト型を採用した。
宮本さんの現場知識で台本を修正
AIは「広いフロアで大人数が踊る」と書いたが、実際の工房は足踏み6名が限度。カットの順序も体験の工程に合わせて並べ直した。現場を知る人がAI原案を実態に合わせて直す工程が不可欠。

まとめ

構成台本は映像の設計図であり、撮影のチェックリストでもある。AIが原案を速く出し、現場を知る人がカットの内容と順序を実態に合わせて修正する。この組み合わせが、限られた時間と人手で実際に使える台本を仕上げる鍵になる。