Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第3話 スマホ1台で、ここまで撮れる~

前回のあらすじ

構成台本(ストーリーボード)をAIに3パターン生成させ、ハイライト型を選択した。宮本が「さぬき体験工房はそんなに広くない」と現場知識で修正し、冒頭カットを「子どもが音楽に合わせて笑い出す瞬間」に決定。台本は映像の設計図であると同時に撮影のチェックリストでもあり、AIが原案を速く出して現場を知る人が修正する組み合わせが鍵だと確認した。

撮影準備と友達の招集

スマホ、三脚、ピンマイクの3点を図示したスマホ撮影の最小構成図

台本が完成した翌日。せとうちマーレブルの事務所で、神谷と宮本はノートPCの画面越しに西園寺とオンラインでつながっていた。台本はできた。あとは実際に撮るだけだ。しかし神谷の頭には不安が先に立つ。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
撮影機材のことなんですが……カメラとか照明とか、どこまで揃えればいいんでしょうか。正直、僕はスマートフォンで動画を撮ったことしかなくて
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
大丈夫よ。まずはスマートフォン1台ね。それと三脚とピンマイクだけ追加すれば十分なの。三脚は手ブレを防ぐため、ピンマイクは話す人の口元に近づけて、周りの音より声を大きく録るためよ。この3つが最小構成ね。ただし屋外はピンマイクが風の音を拾いやすいから、風防のスポンジを必ず付けてね
宮本彩の表情アイコン
宮本
三脚とピンマイク、事務所にあったはずです。北村さんが以前イベント用に買っていたのを見たことがあります
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいわね。高価な機材はあとから考えればいいの。まずはこの3つで撮ってみましょう

機材の不安が解消されたところで、撮影計画の話に移る。台本に沿って、午前中にさぬき体験工房でうどん踏み体験の撮影、午後に屋島山上で補完用のカットも撮る段取りだ。

宮本彩の表情アイコン
宮本
撮影の順番なんですけど、午後に屋島を入れた方がいいと思います。獅子の霊巌は午後の逆光が映えるんです。午前だとのっぺりした絵になってしまうので
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
光の特性を知っている人がいるのは心強いわね。スケジュールは宮本さんの提案に合わせましょう

宮本がもうひとつ切り出した。

宮本彩の表情アイコン
宮本
あの、うどん踏み体験の動画を撮るなら、初めて体験する人のリアクションがほしいんです。大学の友達を2人呼んでいいですか。1人は旅行代理店で働いている同期で、もう1人はアパレルのSNS担当で。2人ともTikTokが好きだから、初体験のリアクションが絵になると思うんです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいアイデアね。被写体を変えれば、同じロケーションでも違うターゲットに届くコンテンツが作れるの。友達2人の動画で若い女性層向け、たまたま体験に来ている親子がいれば、ファミリー層向けになるわ。2種類撮ってみましょう
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
たしかに……ペルソナ(たった一人の理想の視聴者像)の林田家はファミリー層ですよね。ファミリー向けをメインに据えて、若い女性向けも押さえておけば、1回の撮影で2つのコンテンツが作れるわけですか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうよ。プライマリーターゲット(いちばん届けたい相手)はファミリーの林田家、セカンダリーターゲット(次に届けたい相手)は若い女性層ね。撮り分けの方針を先に決めておくと、現場で何を撮るべきか迷わないでしょう

さぬき体験工房へ

さぬき体験工房で友達2人と子どもが音楽に合わせてうどんの生地を踏みながら踊り、神谷が三脚のスマホで撮影している

さぬき体験工房に着くと、工房を営む藤原さんが入口で待っていた。白い割烹着に肩の手ぬぐい。工房の中には、ステンレスの作業台が3台並び、高い天井の鉄骨梁から黒いペンダントライトが暖かい光を落としている。

藤原耕介の表情アイコン
藤原
動画を撮るって聞いたぞ。ここから撮ってみな。窓際だと粉が光に舞って、いい画になるんだよ

藤原さんが指したのは、入口近くの窓際のポジションだ。たしかに夏の日差しがガラス越しに差し込み、空気中に漂う白い打ち粉がきらきらと光っている。職人は「いい画」の場所を、30年の経験で知っていた。

工房にはたまたま体験に来ていた若いお母さんと4歳くらいの子どもがいた。工房の奥の作業台では、もう1組の家族連れが黙々と生地をこねている。

しばらくして、宮本の友達2人が到着した。旅行代理店で働く安田凛と、アパレルのSNS担当をしている橋本真帆。工房に入ったとたん、2人の目が輝いた。

安田凛の表情アイコン
安田
うわ、ここすごい! あや、ここがうどんダンダンダンスの工房?
橋本真帆の表情アイコン
橋本
この粉が舞ってる感じ、めっちゃ映えない?
宮本彩の表情アイコン
宮本
今日はうどんダンダンダンスの撮影を手伝ってほしいの

橋本はスマートフォンを構え、宮本は少し誇らしげだった。

音楽が鳴る、自然に生まれる映像

友達2人が初めての体験者としてビニールシートの上に立ち、裸足で生地を踏み始めた。

安田凛の表情アイコン
安田
え、足で踏むの!?
橋本真帆の表情アイコン
橋本
これ絶対TikTokでウケるやつ

藤原さんがいつものようにスピーカーの電源を入れた。ポップスが流れ出すと、TikTokのリズムに身体が馴染んでいる友達2人がすぐに踊り始めた。安田が足踏みに合わせて腰を振り、橋本がステップを刻む。体験中の子どもも2人のリズムにつられて、小さな足でトントンと踊り出した。宮本もいつの間にか巻き込まれて、全員が音楽に合わせて踏んでいる。お母さんが笑いながら子どもを見ていた。

台本で想定していた以上だった。「子どもが笑い出す瞬間」を冒頭カットに決めていたが、目の前で起きていることはそれを超えている。初めて来た人が自然にリズムに乗って踊り出す。その空気は、台本のカットを並べただけでは生まれない。

神谷が手持ちのスマートフォンで撮り始めたが、踊る2人の振動が床に伝わり、画面が小刻みに揺れる。西園寺にオンラインで状況を伝えると「三脚に固定してもう一度撮ってみて」と指示があった。三脚にスマートフォンをセットし直して撮ると、安定した映像になった。手持ちでは気にならなかった揺れが、画面越しに見ると想像以上に気になる。三脚の効果を実感した瞬間だった。

メインカット1枠と補完カット4枠を並べ、Bロールが映像に緩急を与えることを示す概念図

踊るシーンを撮り終えた後、ファミリー向け動画の素材として、子どもがお母さんと一緒に生地をこねる様子も撮った。さらに別アングルで、手元のアップ、足踏みの瞬間、子どもの笑顔、粉が舞う光景、友達2人のリアクション、お母さんが子どもを見る表情を撮っておく。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
今みたいに、メインのカットとは別のアングルで撮った補完カットのことをBロールと呼ぶの。メインのカットだけだと単調になるけれど、Bロールがあると編集で映像に"呼吸"が作れるのよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
手元のアップや表情のカットがあると、同じシーンでも編集で緩急がつけられるわけですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう。今日のうちにできるだけ撮っておいて。撮り直しに来るのは大変だから

屋島山上で光を学ぶ

やしまーるの回廊で午後のサイド光の中、神谷がスマホで瀬戸内海のパノラマを撮影し、宮本が光の方向を指差している
被写体のシルエットに対して順光・逆光・サイド光の3方向を矢印で示し、それぞれの映像効果を解説する概念図

午後、屋島山上へ移動した。やしまーるでの撮影は、宮本が前日のうちに施設へ電話し、来館者の通行を妨げない範囲で手持ち撮影を行うこと、公開時に施設名を記載することを伝えて了解を得ていた。約200mの回廊を歩くと、自然光が雲の動きで刻々と変わる。5分前と色味が違う。ガラス越しの瀬戸内海がコバルトブルーからセルリアンに揺れ、庵治石の屋根がシルバーグレーに光ったかと思えば、雲が通り過ぎた瞬間に影が走る。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ちょうどいい機会ね。光の方向で映像の印象がどう変わるか、実際に見てみましょう。今、太陽は横から差しているでしょう。これがサイド光よ。被写体に立体感が出るの
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
たしかに、柱に影が長く落ちていますね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
順光は太陽を背にして撮るパターンね。色がきれいに出るわ。逆光は太陽に向かって撮るパターンよ。被写体がシルエットになって印象的な絵が撮れるの。3つの光の方向を知っておくと、撮影する時間帯と場所の選び方が変わるでしょう

獅子の霊巌に移動した。午後の太陽が傾き始め、展望台から見る瀬戸内海に光の帯が伸びている。宮本が「ここです。午後の逆光がすごいんです」と案内し、展望台から瀬戸内海のパノラマをBロール用に収めた。

小冊子のために写真で見ていた屋島と、カメラを構えて立つ屋島は別物だった。風の強さ。雲が動くたびに色が変わる海。島影のシルエットが刻一刻と表情を変える。写真では伝わらない、時間の中で変化し続ける景色がここにあった。

来た人にしかわからない。だからこそ来てもらうための動画を作っている。神谷はスマートフォンのファインダー越しに、その確信を持った。

200カットと宮本の自信

夕方、屋島山上で1日の撮影が終わった。宮本がスマートフォンで撮影データをクラウドにバックアップし始めた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
神谷さん、撮影データ、今のうちにクラウドに上げちゃいますね。一日分の素材が消えたら取り返せないですから
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
たしかに、今日だけで相当な量を撮りましたよね
宮本彩の表情アイコン
宮本
全部で約200カットです。さぬきビートのメイン映像、友達のリアクション、親子の体験、工房のBロール、屋島の風景……若い女性向けとファミリー向けとBロールの3カテゴリで整理しますね

帰り際、友達2人が宮本に声をかけた。

安田凛の表情アイコン
安田
あや、こんな面白い仕事してるなんて知らなかった。私の会社じゃツアーの企画はするけど、こうやって現場で撮影して動画まで自分たちで作るなんてやらないよ
橋本真帆の表情アイコン
橋本
うちの会社もSNSやってるけど、ここまでリアルな素材は撮れない。あや、すごいところで働いてるよ
宮本彩の表情アイコン
宮本
まだ全然できてないんだけど……でも、楽しいかも

旅行代理店で働く同期やSNSを仕事にしている友達の目に、自分の仕事が「面白い」と映ったこと。それは宮本にとって、小さいけれど確かな自信の芽だった。


📌 覚えるポイント

  • スマートフォン+三脚+ピンマイクの3点セット。高価な機材がなくてもスマートフォン1台と三脚・ピンマイクがあれば、手ブレのない安定した映像と聞き取りやすい音声が撮れる。屋外ではピンマイクに風防を付ける
  • 被写体を変えればターゲットが変わる。同じロケーションでも、友達2人を被写体にすれば若い女性向け、親子を被写体にすればファミリー向けのコンテンツになる
  • メインのカットだけでは映像が単調になる。手元のアップ、表情、風景など別アングルの補完カット(Bロール)を撮っておくと、編集で緩急がつけられる
  • 光の方向で印象が変わる。順光は色がきれいに出る、逆光はシルエットが印象的、サイド光は立体感が出る。撮影の時間帯と場所の選定に直結する
  • 子どもの撮影は保護者の同意を書面で残す。口頭でも同意は成立するが、争いになったときに証明できない。使用範囲・期間・削除のルールを決め、撮影同意書にサインをもらう
  • 撮影データはその場でクラウドにバックアップ。一日分の素材が消えたら取り返しがつかない。撮影が終わったらすぐにクラウドへ保存する習慣をつける

📖 覚える用語

Bロール
メインの映像を補完する別アングルのカット。手元のアップ、表情、風景など。メインカットだけでは映像が単調になるが、Bロールがあると編集で緩急がつけられ、映像に「呼吸」が生まれる
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
スマートフォン撮影で200カット収録
機材は事務所にあった三脚とピンマイクを流用したので、新規の購入費はかかっていない。1日のロケで編集に必要な素材がひととおり揃ったため、動画制作を外注せず社内で回せる見通しが立った。他のスポットも同じ構成でそのまま撮影できる。
「さぬきビート」に正式改名
名前は社内で決めず、SNSを仕事にしている外部の目に「指が止まるかどうか」で選んでもらった。自分たちだけで進めていたら仮称のまま走っていたと思う。今後ホームページや小冊子で体験名を出すときは、表記を「さぬきビート」に統一したい。
撮影同意書の取得と今後の課題
同意書はその場で手書きしたが、撮影のたびに文面を作るのは現実的でない。ひな形を1枚用意して受付カウンターに常備し、体験の申し込みを受ける段階で撮影の可否を確認する運用に変えたい。削除の依頼を受ける窓口も、事務所の連絡先で一本化しておく必要がある。

まとめ

高価な機材がなくても、スマートフォン1台と三脚・ピンマイクで安定した映像は撮れる。大事なのは機材の値段ではなく、誰を被写体にするか、どの光で撮るか、どの瞬間を残すかという設計の力だ。そして映像に写る人の同意を、書面で、撮影の現場で確保すること。それが映像を安心して使えるコンテンツに変える。