Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第4話 最初の3秒で心をつかむ~

前回のあらすじ

宮本の大学時代の友達2人も加わり、さぬき体験工房でうどん踏み体験の撮影と、屋島山上・やしまーるでの風景撮影を1日がかりで敢行した。仮称だった「うどんダンダンダンス」は、この日の撮影で「さぬきビート」に改名した。スマートフォン1台+三脚+ピンマイクの最小構成で、体験中の親子の笑顔や友達の生き生きしたリアクションなど約200カットの素材が集まった。高価な機材がなくても、現場を知る人と一緒なら十分な素材が撮れると実感した。

200カットの素材を前に

事務所のPCモニターに冒頭3秒の候補3カットが並び、神谷と宮本が比較検討している場面

撮影から2日後の朝。せとうちマーレブルの事務所に出勤した神谷は、PCのフォルダを開いてため息をついた。撮影素材のサムネイルが、画面いっぱいに並んでいる。さぬきビートで踊る子ども、友達2人の生き生きしたリアクション、やしまーるの回廊に差し込む午後の光、うどん生地がゆっくり伸びるアップ。どれも撮った瞬間の興奮が蘇る素材ばかりだ。一つひとつに、あの日の空気が詰まっている。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
全部いい素材に見えて、どこから手をつければいいのか……。200カットもあると、逆に選べなくなりますね
宮本彩の表情アイコン
宮本
わかります。私も昨日、クラウドで全部見返してみたんですけど、どれも捨てがたくて

宮本のデスクの横に置いたノートPCの画面で、オンライン通話の西園寺が口を開いた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
200カット全部を並べて悩む前に、まず1つだけ決めましょう。動画の最初の3秒——これを「フック」と呼ぶの。スクロールしている人の指を止めるカットを、最初に選ぶのよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
最初の3秒、ですか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう。SNSのタイムラインを想像してみて。動画は自動再生されるけど、最初の数秒でつまらなければ指でスワイプされて終わりなのよ。だから冒頭の3秒に、いちばんインパクトのある映像を置くの

宮本がうなずいた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
友達がSNSを見てるとき、最初の1〜2秒で指が止まるかどうかですよね。私もそうです。最初にぐっと来ないと、もう次の投稿に行っちゃいます

西園寺の言う「フック(冒頭3秒)」とは、動画の最初の3秒で視聴者の指を止めるカットのことだ。SNSの時代、動画は冒頭で見るか見ないかが決まる。だからこそ、いちばん強い映像を先頭に置く。

冒頭3秒のフック選定

冒頭3秒のフック候補3つを横並びで比較した概念図

3人は200カットの中から、冒頭3秒の候補を3つに絞った。

候補①は、さぬきビートで子どもと友達2人が音楽に合わせて踊る瞬間。候補②は、やしまーるの回廊に差し込む午後の光。候補③は、うどん生地がゆっくり伸びるスローモーションだ。

宮本彩の表情アイコン
宮本
やっぱり体験工房の笑顔が一番目を引きます。あの瞬間、友達も子どもも、本当に楽しそうだったんです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
気持ちはわかるわ。でも、ここはペルソナ(たった一人の理想の視聴者像)で考えてみましょう。林田家のお母さんが夜、子どもを寝かしつけた後にスマートフォンを開く。タイムラインをスクロールしている——どのカットで指が止まると思う?

ペルソナの「林田家」とは、阪神間在住の30代夫婦と4歳の子どもの家族像だ。チームが動画の届け先として設計した人物像で、今回のファミリー向け動画の出発点になっている。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
……子どもが楽しそうに踊っているカットですね。林田家のお母さんは、自分の子どもと重ねて見るはずです。回廊の光はきれいだけど、スマートフォンの小さい画面だと伝わりにくい。生地のスローモーションは食べ物好きには刺さるけど、3秒では体験の楽しさが見えません
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ええ、選ぶ物差しが合っているわ。だからファミリー版の冒頭は、友達2人ではなく子どもの笑顔から始めるの。同じ撮影素材でも、ターゲットによって最適な冒頭カットが変わる——これがフック設計の核心よ

冒頭カットが決まった。子どもが音楽に合わせて踊り出す瞬間からスタートし、友達2人が一緒にリズムに乗る映像へつなぐ。体験工房の粉が舞う空気感、お母さんが笑いながら見守る表情——台本の構成に沿って、残りの素材を並べていく。

神谷は無料の動画編集アプリを開き、素材をタイムラインに並べた。カットの長さは台本どおり3秒から12秒まで幅を持たせた。冒頭は短くインパクトを出し、体験の工程はやや長めに見せる。長すぎると飽きるし、短すぎると何が映っているかわからない。つなぎ方もカット(ぱっと切り替わる)とディゾルブ(ゆっくり溶けるように切り替わる)で印象がまったく違う。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
体験工房のシーンはカットでテンポよく。屋島の風景はディゾルブでゆったり。同じ60秒でも、つなぎ方でリズムが変わるのよ
宮本彩の表情アイコン
宮本
なるほど。さぬきビートの場面は音楽のリズムに合わせてカットを切り替えたら、もっとノリが出そうです

サムネイルは動画の表紙

サムネイルの文字の大きさ・配色・配置を示す3つのチェックポイント図

60秒の編集にひと段落がついたところで、西園寺が次のステップを切り出した。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
次はサムネイルね。サムネイルは「動画の表紙」よ。YouTubeの検索結果や関連動画、それにInstagramやTikTokのプロフィールの一覧に並んだときは、再生するかどうかがこの1枚で決まるの。逆に自動再生されるおすすめの画面では表紙は出ないから、そこは冒頭3秒のフックが受け持つのよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
フックが「最初の3秒」なら、サムネイルは「再生ボタンを押す前」の勝負ですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そのとおりね。まずAIにキャッチコピーを出してもらいましょう。「さぬきビートの動画のサムネイルに載せるキャッチコピーを5案出して。ターゲットは30代子育て家庭」と入れてみて

神谷がプロンプトを入力すると、AIが5つの案を返した。「踊る!打つ!食べる!親子うどん旅」「足で踏むから美味しくなる、子どもの体験」「踊って打つ、親子うどん」「家族でリズムに乗る讃岐体験」「3歳から踊れる、さぬきビート」。チームで比較する。

宮本彩の表情アイコン
宮本
「踊って打つ、親子うどん」がいいと思います。短くてリズムがあるし、何をする体験かが一目でわかります
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
僕もそれがいちばん強いと思います。「踊って打つ」で動きが見えるし、「親子うどん」でファミリー向けだと伝わる
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいわね。じゃあCanvaで実際にサムネイルを組んでみましょう。文字の大きさ、配色、配置——この3つがサムネイルの勝負どころよ

宮本がCanvaを開き、背景にさぬきビートの子どもの笑顔カットを配置した。その上にキャッチコピー「踊って打つ、親子うどん」を白い太文字で載せる。小冊子づくりのときは神谷の画面を横から覗き込むばかりだった宮本が、今日は自分でマウスを握っていた。メニューを探して手が止まることもあるが、どこに何を置くかは自分で決めている。

宮本彩の表情アイコン
宮本
……あれ、この色だと背景の映像に文字が埋もれませんか? 白い文字と白いうどんの粉が重なって読みにくいです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいところに気づいたわね。文字に影をつけるか、半透明の帯を敷くか。テロップと同じで、「読みやすさ」と「映像の邪魔をしない」のバランスなのよ

文字に薄い黒の影をつけると、粉の白さと文字が分離して読みやすくなった。さらに西園寺が問いかける。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
もう一つ確認して。ペルソナの視聴状況を思い出してみて——林田家のお母さんが子どもを寝かしつけた後にスマートフォンを開くとしたら、どんな環境で見ているかしら
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
夜の暗い部屋で、スマートフォンの小さい画面……ですね。文字は大きくないと読めないし、暗い画面だと暗い色の背景は見づらい
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう。サムネイルの良し悪しを、自分のPCの大きな画面で判断しちゃだめなの。見る人の環境で確認して

宮本がスマートフォンに転送して暗い部屋を想定しながら確認すると、キャッチコピーの文字がやや小さかった。サイズを上げ、配色をもう少し明るいトーンに調整して、ようやくバランスが取れた。

15秒版という別の設計図

60秒版と15秒版の動画構成の違いを示したタイムライン比較図

60秒版の編集が形になってきたところで、西園寺がもう一つの展開を提案した。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
同じ素材で、15秒のショート動画も作ってみましょう。ただし、60秒版を短くカットするだけじゃだめなの。15秒版は構成そのものが別物よ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
60秒を15秒に縮めるだけではだめなんですか?
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
60秒なら体験の流れを最後まで見せられるけど、15秒では無理でしょう。15秒版は「1メッセージ1動画」が原則ね。伝えたいことを1つだけに絞るの

60秒版は「さぬきビートの体験→屋島の風景→親子の笑顔→最後に『詳しくはこちら』と次の行動を案内する」とストーリーを展開できる。しかし15秒版では、たとえば「さぬきビートで子どもが踊る」の一点だけに絞る。フック→体験の瞬間→リアクション、それだけで15秒が終わる。

宮本彩の表情アイコン
宮本
友達のSNSの投稿を見てると、短い動画のほうが何回も再生されてる気がします。15秒で「さぬきビートってなに?」って思わせて、もっと見たい人がプロフィールから60秒版に飛ぶ——そういう流れですよね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
まさにその流れね。15秒版が入口で、60秒版が本編になるのよ。しかもプラットフォームによって最適な形式が変わるの。縦型が強い場所、横型がいい場所、正方形のほうがタイムラインで目立つ場所——ここは次の工程で詳しくやりましょう

神谷は、フック・サムネイル・尺の3つが連動していることに気づいた。15秒版のフックは60秒版と同じでも、その後の展開がまったく違う。サムネイルも、15秒版は「この一瞬を見たい」と思わせる切り取り方が求められる。同じ素材から複数の動画を作るというのは、ただの使い回しではなく、それぞれが別の設計図を持つということだ。

香川に来る前の自分がスクロールしていたら

作業が終わり、宮本が先に帰った後の事務所で、神谷はひとり完成したサムネイルをスマートフォンの画面で眺めていた。窓の外はもう暗くなりかけている。「踊って打つ、親子うどん」の文字。その背景に、粉まみれの子どもの笑顔。あの撮影の日、台本にはなかった瞬間が、いまサムネイルの中で動画の顔になっている。

冒頭3秒の選び方、サムネイルの作り方、15秒版の構成。今日学んだことのすべてが、1つの問いに帰着していた。「この動画は、届けたい相手の目に飛び込むか」技術を覚えることではなく、相手の目線で考えること。それが動画の設計の出発点なのだと、神谷は窓の外の暗い空を見ながら静かに確信した。次は、この素材にテロップを載せる工程が待っている。


📌 覚えるポイント

  • 動画の最初の3秒を「フック」と呼ぶ。スクロールの指を止めるいちばん強いカットを冒頭に置く
  • フックの選定は自分の好みではなく、ペルソナの視聴状況から逆算して決める
  • サムネイルは「動画の表紙」。再生ボタンを押す前の勝負で、文字の大きさ・配色・配置が鍵になる
  • サムネイルの確認はPCの大画面ではなく、ペルソナの視聴環境(スマートフォン・暗い部屋)で行う
  • 60秒版と15秒版では構成がまったく違う。15秒版は「1メッセージ1動画」で伝えたいことを1つに絞る
  • フック・サムネイル・尺はすべて連動している。同じ素材でもターゲットと尺に応じて設計を変える

📖 覚える用語

フック(冒頭3秒)
動画の最初の3秒で視聴者の指を止めるカット。SNSのタイムラインでは冒頭数秒で見るか見ないかが決まるため、再生を続けてもらえるかどうかを左右する
サムネイル
動画の「表紙」にあたる1枚の画像。タイムラインや検索結果に表示され、再生するかどうかの判断材料になる。キャッチコピー・文字の大きさ・配色・配置を工夫して「指を止める表紙」を作る
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
冒頭3秒のフック選定
冒頭3秒のカットに「さぬきビートで子どもが踊る瞬間」を選定。ファミリー層のペルソナが夜にスマートフォンを開く状況を想定し、子どもの笑顔がいちばん指を止めると判断しました。
サムネイル制作
サムネイルのキャッチコピーはAIに5案出してもらい、「踊って打つ、親子うどん」に決定。Canvaで文字と配色を調整し、暗い環境のスマートフォン画面でも読みやすいデザインに仕上げました。
15秒ショート動画版の制作方針
60秒版に加えて15秒のショート動画版も並行して作ります。15秒版は「さぬきビートで子どもが踊る」の一点に絞り、興味を持った方が60秒版に進む導線にします。

まとめ

動画の勝負は再生ボタンが押される前から始まっている。冒頭3秒のフックで指を止め、サムネイルで再生を促し、15秒版で入口を広げる。そのすべての判断基準は自分の好みではなく、届けたい相手がいつ、どこで、どんな画面を見ているかだ。