観光マーケティング実践コース
~第2話 みんなに届く言葉は、誰にも届かない~
宮本と高松の街を歩いた神谷は、スーパーと観光の根本的な違いに気づいた。「お店はお客様が来てくれる。観光は知ってもらうところから始まる」西園寺が導入編で学んだ5ステージのファネル(お客さんが絞り込まれていく流れ)を観光に読み替え、認知のハードルが桁違いに高いことを整理した。北村は「うちは『知る』のところで止まっとる」と静かに自覚した。
みんなに来てほしい
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブル事務所の簡易ミーティングスペース。北村が会議テーブルに香川の観光パンフレットや地図を広げ、熱く語っている場面。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office/angle_meeting.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/北村裕設定画像.png、kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。 【人物】北村裕(62歳・男性、グレーの作業ベスト、白いワイシャツ、銀縁眼鏡、白髪交じりの短髪、テーブルに広げたパンフレットを指差しながら前のめりで語る)。宮本彩(24歳・女性、ティール〜海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、手元にマスタードイエローのフィールドノート、北村の話を聞いている)。神谷悠馬(27歳・男性、ネイビーのスーツに白シャツ、ネクタイ、黒い短髪、パンフレットを手に取りながら聞いている)。 【構図】手前右の会議テーブルを囲む事務用スタッキングチェア3脚に3人が座る。テーブル上にカラフルな観光パンフレット数枚と抽象的な地図風の紙が広がる。背景に奥壁の2連窓下に前縁をそろえて横一列に並ぶ同一寸法の薄いグレーのメラミン天板デスク2台、キャスター付きホワイトボード、奥壁の引き違い窓2連から自然光。 【小物】会議テーブル上のカラフルな観光パンフレット(文字は抽象表記)、地図風の紙(瀬戸内の海と島の形のみ)、ペットボトルの水、紙コップ。宮本の手元にマスタードイエローのフィールドノート。 【ロケーション整合】手前右のオーク調中古会議テーブル+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア3脚。右壁際に重ねた予備1脚。背景に奥壁の2連窓下へ前縁をそろえて横一列に並ぶ同一寸法の薄いグレーの事務デスク2台(左の北村デスクに黒いPCモニター+クリアファイルの山+波模様マグカップ、右の宮本デスクに白ノートPC+マスタードイエローのリングノート)。右壁にキャスター付きホワイトボード+グレーのスチールラック4段。奥壁の引き違い窓2連+窓横のコルクボード。グレーのタイルカーペット床。 【色調】窓からの初夏の自然光。白・グレー基調の質素なNPO事務所に、テーブル上のカラフルなパンフレットが彩りを添える。瀬戸内ブルー基調。北村の地域愛と熱気が伝わる温かみのあるトーン。 【避ける】読める実テキスト、特定施設名、商標、実在ロゴ。PC画面の内容。匿名シルエット以外の他人物の顔。
翌朝のせとうちマーレブル事務所。前日の街歩きで確認した「認知のハードルが桁違いに高い」という課題を受けて、ターゲット(届けたい相手)設計の打ち合わせが始まった。会議テーブルの上に、北村が観光パンフレットや地図を広げている。ノートPCの画面には、西園寺がオンラインで参加していた。

北村はパンフレットを一枚一枚指差しながら語った。島の写真、うどん店の紹介、瀬戸内の夕日。どの場所にも思い入れがあり、どの魅力も切り離せない。30年以上この土地を見てきた人の目は、真剣そのものだった。


北村の声には、30年分の地域への愛着がにじんでいた。「外す」のではなく「全員に届けたい」。それは誰かを切り捨てることへの恐れであり、すべての人に届けたいという温かさから来る願いだった。この土地を愛してきた人だからこその抵抗だった。
たった一人を決めましょう
北村の熱い語りを、ノートPCの画面越しに西園寺が静かに聞いていた。北村が話し終わるまで一言も口を挟まなかった。すべてを受け止めたうえで、穏やかに切り込んだ。

北村が身を乗り出した。テーブルの上のパンフレットを手で押さえるようにして、声に力がこもった。



北村の目は真剣だった。これは理論への反発ではない。長年、一人ひとりの来訪者を大切にしてきた人の、切実な恐怖だった。西園寺はうなずいて、少し間を置いてから答えた。













【種類】日本語ラベル入りのターゲティング比較図。 【構図】見出しは「絞るほど、届く」。左の「みんな向け」では「香川には魅力がたくさん」という汎用メッセージから薄い点線が伸び、旅行者カードの手前で途切れる。右の「林田家向け」では「深夜フェリー」「4歳児」「ベビーカー」「うどん体験」の具体的な提案が林田家へ届き、似た条件の家族にも広がる。 【結論】左は「情報がぼやける」、右は「具体性が共感を広げる」。 【色調】左はグレー、右は瀬戸内ブルー・ティール・マスタード。比較列、資料カード、矢印と読める日本語で情報の流れを示す。 【避ける】実在ロゴ、商標、透かし。
西園寺はさらに、北村にわかりやすい例えを出した。




そのとき、神谷が静かに口を開いた。









北村は腕を組んで、天井を見上げた。長い沈黙があった。


ペルソナは検証して選ぶ
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブル事務所の簡易ミーティングスペース。ホワイトボードに描いた2つのファネル図を前に、北村が腕を組んで考え込み、神谷と宮本が北村の反応をうかがっている場面。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office/angle_meeting.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/北村裕設定画像.png、kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。 【人物】北村裕(62歳・男性、ライトブルーのボタンダウンシャツ(胸ポケットにペン)、細い銀縁眼鏡、明るいシルバーの短髪、ベージュのチノパン、スタッキングチェアに座り腕を組んで思案顔)。宮本彩(24歳・女性、ティール〜海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュで低めのポニーテール、マスタードイエローのフィールドノートを膝に抱えて北村を見ている)。神谷悠馬(27歳・男性、ネイビーのスーツに白シャツ、ネイビーのネクタイ、黒い短髪、開いたノートPCの前で北村へ視線を向けている)。 【構図】手前のオーク調会議テーブルを3人が囲む。左に神谷とシルバーのノートPC、中央奥に腕を組んだ北村、右に宮本。テーブル中央に瀬戸内の島影だけを抽象化した地図、その右に小さな風景写真のプリント数枚。背景右手にキャスター付きホワイトボード。 【補助】ホワイトボードの2つのファネル図。左は間口の狭い小さなファネル、右は間口の広い大きなファネルで上端を赤い楕円で囲む。段はいずれも破線の抽象表記。 【小物】シルバーのノートPC(画面は見えない角度)、瀬戸内の島影を抽象化した地図、風景写真のプリント数枚、ペットボトルの水、紙コップ2つ、宮本のマスタードイエローのフィールドノート。 【ロケーション整合】手前のオーク調中古会議テーブル+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア3脚。背景に奥壁の2連窓下へ前縁をそろえて横一列に並ぶ同一寸法の薄いグレーの事務デスク2台(黒いPCモニター、ペン立て)。右壁側に約180×90cmのキャスター付き自立式ホワイトボード(マーカー3本+イレーサー)とグレーのスチールラック4段(ファイルボックス、段ボール箱、青いコンテナ、上段に白いヘルメット)。奥壁の引き違い窓2連から自然光、外に高松市内の中層ビルと青空。窓間のコルクボード。グレーのタイルカーペット床。 【色調】窓からの明るい自然光。白・グレー基調の事務所に、宮本のティールのウィンドブレーカーと机上の写真が彩りを添える。瀬戸内ブルー基調。判断を保留している静かな緊張のトーン。 【避ける】読める実テキスト(ファネル図の段は破線の抽象表記のみ)、特定施設名、商標、実在ロゴ。PC画面の内容。匿名シルエット以外の他人物の顔。
西園寺はノートPCの画面越しに指を立てた。




【種類】日本語ラベル入りのペルソナ検証図。「ペルソナは3つの証拠で選ぶ」。 【構図】3列を左から「現場の声」「外部データ」「チームの実感」と並べ、下部の「根拠のあるペルソナ」へ3本の線を合流させる。 【内容】現場の声は電話の質問、メールの声、現場メモから仮説を立てる。外部データは観光調査、同行者の傾向、フェリー利用傾向で裏づける。チームの実感は企画・現場・運用の立場から一致・違い・要確認を整理する。 【結論】一件の思いつき、数字だけ、勘だけで決めず、3つを合わせて判断する。 【色調】白地、瀬戸内ブルー・ティール・マスタード。文字と具体資料カードを読みやすく配置する。 【避ける】実在ロゴ、商標、透かし。



📌 覚えるポイント
- 「みんな」に届くメッセージは誰にも届かない。誰に届けるかを先に選ぶ段階を「ターゲティング」と呼び、届け先を決めることは他のお客様の切り捨てではない。一人に向けて具体的に作った言葉は、似た境遇の人にも届く
- 「狙う層をどれくらいの広さにするか」と「その層をどれだけ具体的に思い描くか」は別の話。ペルソナの「たった一人」は後者で、お客様を一人にすることではなく、層を代表する一人を描くこと。層そのものを小さくしすぎると、その層を呼べても人数が足りない(観光庁のガイドブックが「市場規模」として注意している点)。また絞るのは「誰に向けて作るか」であって「何人に知ってもらうか」ではない
- ペルソナが決まるとチーム全員が「この人ならどう思うか」という共通の判断軸を持てる。ペルソナなしでは各メンバーが異なるお客様像を想像し、施策がバラバラになる
- ペルソナは勘で選ぶものではなく検証して選ぶ。①現場の声から仮説を立てる → ②複数の情報源で裏づけを取る → ③チームの現場感覚と照らし合わせる。三つが重なったとき、根拠を持って「この人だ」と言える
📖 覚える用語
- ペルソナ
- 届けたい相手を、年齢・家族構成・行動・不安まで含めた具体的な一人の人物像として描いたもの。チーム全員が同じ人物を思い浮かべられるようにするための道具。
- ターゲティング
- 市場を切り分けたうえで、誰に向けて届けるかを先に選ぶ段階。地域の思い入れや勘ではなく、旅行者のデータや聞き取りをもとに絞り込む。
- 今日決めたこと
- 届け先を先に決めてから作る、という進め方に北村さんの同意を得た。マーケティングでは「ターゲティング」と呼ぶ段階。誰にするかはこちらで決めず、次回、現場の記録をもとに一緒に選ぶ。
- 北村さんの懸念への整理
- 「一人に絞ると他のお客様を逃すのでは」という懸念について、話を二つに分けて確認した。狙う層の広さは絞りすぎない(観光庁の手引きも市場規模への注意を挙げている)。一方、その層を代表する一人はできるだけ具体的に描く。知ってもらう努力を減らす話ではない、という点も添えた。
- 次にやること
- ペルソナは勘で決めず、①現場の声から仮説を立てる → ②別の情報源で裏づけを取る → ③チームの実感と照らし合わせる、の順で検証する。まず、これまでに受けた問い合わせの記録が手元にどれだけ残っているかを、宮本さんと洗い出す。
