観光マーケティング実践コース
~第4話 お客様の道のりを、一本の線にする~
宮本が先週電話で対応した神戸在住のご家族の声——30分の電話で聞いた子連れ旅行の不安——がペルソナの仮説を描き出した。北村の「一件の電話だけで決めていいのか」という疑問に、神谷がAIで香川県観光客動態調査と総務省情報通信白書の統計データを出典付きで調べ、裏づけを取った。北村も長年この地域を見てきた実感として家族連れの増加を挙げており、検証プロセスの3ステップが揃った。林田家のペルソナカードが完成し、北村は「この家族のために、一番いいものを作ろう」と決断した。
ペルソナは決まった、でも道筋がない
ペルソナが決まった翌日。せとうちマーレブルの事務所に、朝から4人が集まっていた。会議テーブルの上に、昨日まとめたペルソナカードが広げてある。西園寺は今日もオンラインでつないでいた。


「知る」「惹かれる」で止まっている
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブル事務所の簡易ミーティングスペース。宮本がフィールドノートとスマートフォンの画面を見せながら問い合わせ内容を説明している場面。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office に厳密準拠。第一参照=angle_meeting.png、第二参照=angle_desk.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/北村裕設定画像.png、kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。 【人物】宮本彩(24歳・女性、ティール〜海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、右手にスマートフォン、左手でマスタードイエローのフィールドノートを開いてテーブルに置いている)。北村裕(62歳・男性、淡いライトブルーの長袖ボタンダウンシャツ、襟元に白いクルーネックTシャツ、左胸ポケットにオフホワイトのカードケース、銀灰色の眼鏡、明るいシルバーの短髪、腕組みしながら宮本の話を聞いている)。神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、メモを取りながら聞いている)。 【構図】手前右の会議テーブルを囲む事務用スタッキングチェア3脚に3人が座る。宮本が中央寄り、テーブル上にフィールドノートとスマートフォンを置いて身を乗り出している。北村は向かい側で腕組み。神谷は宮本の隣でメモを取る。奥にノートPCの画面(西園寺のオンライン参加を示す青い枠)。 【小物】マスタードイエローのフィールドノート(開いた状態、ページに抽象的なメモ書き)。スマートフォン(画面は抽象表記のみ)。会議テーブル上のペットボトルの水。奥のノートPC。 【ロケーション整合】手前右のオーク調中古会議テーブル+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア3脚。右壁際に重ねた予備1脚。背景に奥壁の2連窓下へ前縁をそろえて横一列に並ぶ同一寸法の薄いグレーの事務デスク2台(左の北村デスクに黒いPCモニター+クリアファイルの山+波模様マグカップ、右の宮本デスクに白ノートPC+マスタードイエローのリングノート)。右壁にキャスター付きホワイトボード+グレーのスチールラック4段。奥壁の引き違い窓2連+窓横のコルクボード。グレーのタイルカーペット床。 【色調】窓からの初夏の自然光。白・グレー基調の質素なNPO事務所。宮本のフィールドノートのマスタードイエローとウィンドブレーカーのティールが差し色。瀬戸内ブルー基調。問い合わせの実態が明らかになる緊張感のあるトーン。 【避ける】読める実テキスト、特定施設名、商標、実在ロゴ。スマートフォン画面の具体的な文面。匿名シルエット以外の他人物の顔。
宮本がマスタードイエローのフィールドノートとスマートフォンの画面をテーブルに広げた。ここ半年分の問い合わせ記録と、InstagramのDM(ダイレクトメッセージ)を一件ずつ整理してきたのだ。

宮本はスマートフォンの画面をスクロールしながら、DMの一覧を見せた。「お子さん連れで楽しめますか?」「うどん体験って何歳からできますか?」「高松から屋島まで子ども連れで行けますか?」質問としては具体的なものもある。でも、この人たちもそれきりだった。質問は興味の段階で止まっている。その先——具体的な行き方を調べたり、フェリーの便を確認したりするところまで進んだ人は、ほんの一握りだった。


カスタマージャーニーを描く
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブル事務所。神谷がホワイトボードの前に立ち、青のマーカーでカスタマージャーニーの6ステップを書き足している場面。宮本と北村がホワイトボードを見つめている。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office に厳密準拠。第一参照=angle_board.png、第二参照=angle_meeting.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png、kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/北村裕設定画像.png。 【人物】神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、右手に青マーカーを持ちホワイトボードに書き込んでいる)。宮本彩(24歳・女性、ティール〜海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、椅子に座ったままホワイトボードを見上げている、表情は明るく前のめり)。北村裕(62歳・男性、淡いライトブルーの長袖ボタンダウンシャツ、襟元に白いクルーネックTシャツ、左胸ポケットにオフホワイトのカードケース、銀灰色の眼鏡、明るいシルバーの短髪、椅子に座りホワイトボードを真剣に見つめている)。 【構図】ホワイトボードに向かって立つ神谷が画面左寄り。ホワイトボードには横書きで「知る」「惹かれる」「調べる」「予約する」「体験する」「共有する」の6つのステップが青文字で並び、矢印で繋がれている。手前に座る宮本と北村。奥のノートPC画面に青い枠(西園寺のオンライン参加)。 【小物】ホワイトボード上の赤・青・黒マーカー3本+イレーサー。ホワイトボードに青文字で描かれた6ステップと、それらを結ぶ矢印。会議テーブル上のフィールドノート、ペットボトル。 【ロケーション整合】キャスター付き自立式ホワイトボード(中央やや右寄り)。手前右のオーク調中古会議テーブル+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア。背景に横一列で並ぶ同一寸法の薄いグレーの事務デスク2台。右壁のグレーのスチールラック4段。奥壁の引き違い窓2連から自然光+窓横のコルクボード。グレーのタイルカーペット床。 【色調】窓からの初夏の自然光がホワイトボードを照らす。白・グレー基調の事務所にホワイトボードの青い線が際立つ。瀬戸内ブルー基調。概念が形になる瞬間の高揚感を感じるトーン。 【避ける】ホワイトボード上の6ステップ以外の読める実テキスト、特定施設名、商標、実在ロゴ。PC画面の内容。匿名シルエット以外の他人物の顔。
宮本の話を聞いた西園寺が、画面越しに切り出した。




神谷がホワイトボードの前に立ち、青のマーカーを手に取った。西園寺の問いかけに導かれて、最初のステップ「知る」を書き込む。宮本が一つ具体例を出すたびに、西園寺が「次は?」と促し、ステップが一つずつ書き足されていく。宮本の日常的な言葉が、ホワイトボード上の一本の線として形を成していった。

【種類】詳細カスタマージャーニー図。知るから共有するまでの6段階ごとに、行動・接点・気持ちと感情曲線を示し、最初の2段階を重点化する。
ホワイトボードに6つのステップが並んだ。知る、惹かれる、調べる、予約する、体験する、共有する——宮本の具体例が、一本の道のりとして可視化された瞬間だった。



タッチポイントを洗い出す
ジャーニーマップが描けたところで、西園寺がさらに次の問いを投げかけた。



西園寺に促されて、神谷が6つのステップの下にタッチポイントを書き込んでいく。すると、あることが浮かび上がった。せとうちマーレブルが自分たちでコントロールできる接点は、ごくわずかだった。フェリーの公式サイト、旅行会社のツアーページ、宿泊予約サイト——「調べる」から先のタッチポイントは、すべて他社が運営している。
自分たちが担える場所を見極める
【種類】詳細役割分担図。旅の6段階を列、旅行者との接点・主な担い手・今回つくるものを行にした表で、2段階目から3段階目への受け渡しを示す。
タッチポイントの整理が進むにつれ、北村の表情が少しずつ曇っていった。


北村の目に、かすかな安堵が浮かんだ。ジャーニーの全ステップを自前で担えと言われたら、2人しかいないNPOでは到底無理だ。でも「最初の2ステップに集中する」なら、手が届くかもしれない。自分たちが長年この土地で培ってきた知識は、まさに「知る」と「惹かれる」のための素材そのものだった。


道の整備が僕たちの仕事
ジャーニーマップにタッチポイントを重ね、せとうちマーレブルが担う範囲を赤のマーカーで色分けしたホワイトボードを、4人で見つめた。白い盤面に、道筋がくっきりと浮かび上がっている。



宮本の言葉に、北村が深くうなずいた。ジャーニーマップという地図はできた。次はその地図に描いた道が、本当に林田家の足で歩けるものなのかどうか。現場に出て確かめる番だ。
宮本がフィールドノートにジャーニーマップのスケッチを写し取りながら、ペンを止めた。「体験する」のステップに目がいく。紙の上に描かれた6つのステップは、まだ枠組みにすぎない。ここに林田家の足音を書き込むには、自分たちの足で歩くしかない。
📌 覚えるポイント
- カスタマージャーニーを描くと、頭の中にあった「なんとなくの流れ」が時系列の地図になる。観光でも小売でも道のりの基本構造は同じで、時間の順に開くから打ち手を置く場所が決まる
- 観光版カスタマージャーニーは6ステップ。知る→惹かれる→調べる→予約する→体験する→共有する。小売と違い「体験する」ステップは旅行そのものであり、お客様に生活圏を離れてもらう必要がある
- 止まっている場所がわかれば打ち手が決まる。せとうちマーレブルの顧客は「知る」「惹かれる」で止まっていた。どこで止まっているかを特定することが、施策の優先順位を決める
- ジャーニーの全ステップを自分たちで担う必要はない。予約サイトやツアーは旅行会社が持つ。自分たちの強みが活きるステップに集中することで、限られたリソースを最大限に活かせる
- タッチポイントを洗い出すと、自分たちが中身を書き換えられる場所と、他社に任せるしかない場所が切り分けられる。全体を俯瞰してから自分たちの持ち場を決める
- 「小冊子で知ってもらう、動画で惹きつける」——2つの媒体をジャーニーのどのステップに位置づけるかが明確になり、プロジェクトの設計図が完成した
📖 覚える用語
- カスタマージャーニー(観光版)
- 第1話で観光の言葉に置き換えた5ステージ(知る→気になる→くらべる→決める→また来る)を、旅の道のりとして時間の順に開いたもの。「知る」から「惹かれる」「調べる」「予約する」「体験する」「共有する」までの6ステップで、ペルソナの行動を時系列に可視化し、各ステップで必要な施策を整理する手法。
- タッチポイント
- お客様が商品・サービス・地域と接触するあらゆる接点。SNSの投稿、友人の口コミ、公式サイト、予約サイト、パンフレットなどが該当する。カスタマージャーニーの各ステップに並べると、自分たちが中身を書き換えられる接点と、他社が運営していて手を出せない接点を切り分けられる。
- カスタマージャーニーの可視化
- 6ステップの枠に当てはめると、問い合わせが「どこで止まったか」を数えられるようになる。今後は問い合わせ記録を定期的にこの枠へ振り分け、止まる位置が先へ動いたかどうかを施策の効き目の目安にしたい。ジャーニーマップは一度描いて終わりではなく、繰り返し使う物差しとして手元に置いておく。
- タッチポイントの現状
- 接点は「自分たちで中身を書き換えられるもの」と「他社が運営していて手を出せないもの」に仕分けると扱いやすい。前者は公式サイト、SNSアカウント、紙の媒体の3つで、どれも大きな費用をかけずに手を入れられる。手つかずのまま伸びしろが残っているとも言えるので、まずはこの3つについて誰がいつ更新するかを決めておきたい。
- プロジェクトの設計図
- 担当範囲を絞ったことで、これから先の判断基準が一本になった。新しい案が出てきたときは「林田家が『知る』『惹かれる』に近づくかどうか」で採否を決められる。予約や宿泊の相談を受けたときに自前で抱え込まず、連携先につなぐ線引きも同時に決まったことになる。
