観光マーケティング実践コース
~第5話 全部やりたい、でも1つに絞る~
西園寺に促されて神谷がホワイトボードに描いたカスタマージャーニー(お客様が知ってから来てくれるまでの道のり)で、せとうちマーレブルの持ち場が見えてきた。「知る」と「惹かれる」の最初の2ステップに集中し、小冊子で知ってもらい、動画で惹きつける——プロジェクトの設計図ができた。
全部紹介したい
カスタマージャーニーが固まった翌朝。せとうちマーレブルの事務所には、いつもの顔ぶれが揃っていた。ノートPCの画面には、オンラインで参加する西園寺の姿がある。今日の議題は、設計図に載せる「紹介する場所」を決めることだ。
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブル事務所。北村が壁に貼ったA3サイズの香川観光マップの前に立ち、指で島々をたどりながら名所を語っている場面。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office に厳密準拠。第一参照=angle_board.png、第二参照=angle_meeting.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/北村裕設定画像.png、kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。 【人物】北村裕(62歳・男性、グレーの作業ベスト、白いワイシャツ、銀縁眼鏡、白髪交じりの短髪、右手で壁の観光マップを指している、目を輝かせて語る表情)。宮本彩(24歳・女性、ティール〜海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、スタッキングチェアに座り北村の話を聴いている)。神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、メモを取りながら聴いている)。 【構図】北村が壁の観光マップの前に立ち、右手で地図上の島を指している。宮本と神谷は手前の会議テーブルに座り、北村の方を見上げている。奥にノートPCの画面(西園寺のオンライン参加を示す青い枠)。 【小物】壁に貼られたA3サイズの観光マップ(香川県全域、島々や観光スポットが抽象的に表示)。会議テーブル上のペットボトルの水。奥のノートPC。 【ロケーション整合】kagawa_13_marble_office:手前右のオーク調中古会議テーブル+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア3脚。右壁際に重ねた予備1脚。背景に奥壁の2連窓下へ前縁をそろえて横一列に並ぶ同一寸法の薄いグレーの事務デスク2台(左の北村デスクに黒いPCモニター+クリアファイルの山+波模様マグカップ、右の宮本デスクに白ノートPC+マスタードイエローのリングノート)。右壁にキャスター付きホワイトボード+グレーのスチールラック4段。奥壁の引き違い窓2連+窓横のコルクボード。グレーのタイルカーペット床。 【色調】窓からの初夏の自然光。白・グレー基調の質素なNPO事務所。北村の表情に温かみがあり、観光マップの色彩が差し色。瀬戸内ブルー基調。北村の愛着が伝わる温かなトーン。 【避ける】読める実テキスト、商標、実在ロゴ。観光マップ上の具体的な地名文字。匿名シルエット以外の他人物の顔。
北村が壁に貼ったA3サイズの香川の観光マップの前に立ち、指で瀬戸内海の島々をたどり始めた。

北村の指が地図の上を西へ滑る。瀬戸内海に浮かぶ島々を、ひとつずつ指差しながら語り続けた。


ひとつ語るたびに北村は前のめりになり、声に熱が宿る。北村が語る名所は、旅行ガイドの説明文ではなかった。「初めて行ったとき」「案内したお客さんが」——すべてが自身の体験として語られている。


宮本の言葉に、北村は嬉しそうに目を細めた。若い世代が同じ思いでいてくれる。地図をなぞる指先に力が入る。小豆島も、直島も、父母ヶ浜も、栗林公園も——どれも手放したくない。その気持ちが、事務所の空気を温かく満たしていた。
30年以上この土地を見てきた北村の愛着が、言葉のひとつひとつからあふれ出していた。どの名所にも、案内した観光客の笑顔や、季節ごとに変わる風景の記憶がある。どれかを外すというのは、大切な宝物を箱にしまい込むようなものだった。
まず小さく始めよう
神谷は、北村の言葉を最後まで聞いてから、静かに口を開いた。
【種類】詳細比較図。5業務へ分散して未完になる左図と、林田家の1ルートへ集中して小さな成功から2・3ルートへ広げる右図を比較する。




スモールスタート(まず小さく始めて、うまくいったら広げるやり方)。神谷がまるやまマートで身をもって学んだ考え方だった。大きく始めるのではなく、最小限の規模で試して手応えを確かめてから次に進む。


北村の声には切実さがあった。それは「わがまま」ではない。この土地の魅力を知り尽くした人間だからこその、正直な叫びだ。



北村は腕を組み、しばらく黙って壁の観光マップを見つめていた。指先が、無意識に地図上の屋島の位置をなぞっている。
問い合わせの記録が教えてくれること
沈黙を破ったのは宮本だった。マスタードイエローのフィールドノートを開き、スマートフォンの画面をテーブルの上に置いた。
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブル事務所の簡易ミーティングスペース。宮本がフィールドノートとスマートフォンの画面を見せながら問い合わせの傾向を北村と神谷に説明している場面。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office に厳密準拠。第一参照=angle_meeting.png、第二参照=angle_desk.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/北村裕設定画像.png、kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png。 【人物】宮本彩(24歳・女性、ティール〜海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、右手にスマートフォン、左手でマスタードイエローのフィールドノートを開いてテーブルに置いている)。北村裕(62歳・男性、グレーの作業ベスト、白いワイシャツ、銀縁眼鏡、白髪交じりの短髪、フィールドノートを手に取って見ている)。神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、宮本の説明を聞きながら頷いている)。 【構図】会議テーブルを囲んで3人が座る。宮本が中央寄り、テーブル上にフィールドノートとスマートフォンを置いて身を乗り出している。北村は向かい側でフィールドノートを手に取って見ている。神谷は宮本の横で頷いている。奥にノートPCの画面(西園寺のオンライン参加を示す青い枠)。 【小物】マスタードイエローのフィールドノート(開いた状態、蛍光ペンで色分けされた抽象的なメモ書き)。スマートフォン(画面は抽象表記のみ)。会議テーブル上のペットボトルの水。 【ロケーション整合】kagawa_13_marble_office:手前右のオーク調中古会議テーブル+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア3脚。右壁際に重ねた予備1脚。背景に奥壁の2連窓下へ前縁をそろえて横一列に並ぶ同一寸法の薄いグレーの事務デスク2台(左の北村デスクに黒いPCモニター+クリアファイルの山+波模様マグカップ、右の宮本デスクに白ノートPC+マスタードイエローのリングノート)。右壁にキャスター付きホワイトボード+グレーのスチールラック4段。奥壁の引き違い窓2連+窓横のコルクボード。グレーのタイルカーペット床。 【色調】窓からの初夏の自然光。白・グレー基調の質素なNPO事務所。宮本のフィールドノートのマスタードイエローとウィンドブレーカーのティールが差し色。瀬戸内ブルー基調。宮本の説明に北村が耳を傾ける真剣な雰囲気。 【避ける】読める実テキスト、特定施設名、商標、実在ロゴ。スマートフォン画面の具体的な文面。匿名シルエット以外の他人物の顔。




宮本はフィールドノートのページをめくった。蛍光ペンで色分けされた問い合わせの一覧が並んでいる。






北村は宮本のフィールドノートを手に取り、ページを一枚ずつめくった。一つひとつの問い合わせの背後に、香川に来たいと思っている家族の姿が浮かんでいるようだった。
北村の決断
北村は椅子から立ち上がり、壁の観光マップに歩み寄った。指先で屋島の位置をなぞり、しばらく黙ったまま地図を見つめている。事務所の窓から差し込む初夏の光が、マップの上に柔らかな影を落としていた。
【種類】詳細ルート選定図。北を上にした実際の香川県の東西に長い輪郭と瀬戸内海の島々を使い、候補4ルートを灰色点線、選定ルートをティール実線で示し、2つの選定根拠を添える。【地理配置】小豆島は県北東の大きな島、直島は高松の北西側、父母ヶ浜は県西部の海岸、栗林公園は高松市街側に置く。選定ルートは、香川県外の北東側にある神戸から高松市朝日町の高松東港へ渡り、高松東港の東側にある屋島へ進み、その後は高松市内のうどん体験へ戻る。往路到着と復路出発の高松東港は同じ1地点として示す。
小豆島も、直島も、父母ヶ浜も——どれも大切な場所だ。けれど、全部を一度に紹介しようとすれば、どの名所の魅力も薄まってしまう。北村は自分にそう言い聞かせるように、ゆっくりと息を吐いた。
事務所の時計の秒針の音だけが聞こえる。宮本も神谷も、北村の答えを静かに待った。この決断は、北村自身がたどり着かなければ意味がない。

北村が振り返った。眼鏡の奥の目に、葛藤を乗り越えた静かな決意が宿っていた。

宮本が小さく拳を握り、「やった」とつぶやいた。神谷も、ほっとした表情で頷いた。「全部やりたい」から「まず1つ」へ——30年分の愛着を一度脇に置いて、最初の1本に懸けるという北村の決断が、これから始まるプロジェクトの土台になる。北村の決断が、このプロジェクトを前に進める一番の力だ。それを一番近くで見てきた宮本が、誰よりもわかっていた。
明日は現場へ
ルートが決まった直後、宮本が勢いよく立ち上がった。




窓の外では、初夏の風が街路樹を揺らしている。この小さな事務所で決まった1ルートが、これからどんな形になっていくのか。まだ誰にもわからない。ただ、ひとつだけ確かなことがある——始まった、ということだ。
📌 覚えるポイント
- 全部をいっぺんにやろうとすると、人も時間も予算も分散して、どの取り組みも中途半端になる。まず1つに絞って成功の手応えを確かめ、その実績を根拠に次へ進む——スモールスタートはあきらめではなく順番の設計
- 優先順位は「自分が一番良いと思うもの」ではなく、「ペルソナに合い、問い合わせの傾向が裏づけるもの」で決める。実際に届いた声の記録に基づく判断なら、チーム全員が納得できる出発点になる
- 小さな実績は、次の提案の説得材料になる。「前回はこの組み合わせでこれだけの反応がありました」と具体的に示せれば、2本目・3本目へ広げるときの根拠になる
- 絞ることは捨てることではない。ほかの観光資源の魅力を否定しているのではなく、順番を決めているだけ。最初の1本が成功すれば、次へ手を広げるための実績と自信が手に入る
- 「全部紹介したい」という気持ちは正しく、それ自体が推進力になる。ただし限られた人手と予算で最大の成果を出すには、まず1つに全力を注ぎ、残りは次の機会に回す覚悟がいる
- 日常の電話やメッセージの記録には、お客様の属性・関心・行動パターンの手がかりが眠っている。改めて整理すると、ペルソナの仮説を裏づける証拠が見つかり、次にやるべきことの根拠になる
📖 覚える用語
- スモールスタート
- 最小限の規模で始めて成果を確認し、段階的に拡大する手法。全部を一度にやるとどれも中途半端になるため、まず1つに絞って成功を作り、それを次の一手の根拠にする。
- スモールスタートの方針で1ルート決定
- 最初の1ルートを「ジャンボフェリー深夜便で神戸発→朝に高松東港着→屋島散策→うどん体験」の1泊2日コースに決定。ほかの名所は次の機会に回す。
- ルート選定の根拠
- ペルソナ「林田家」(阪神間在住・30代夫婦・未就学児1人)と宮本の問い合わせ記録の両方が、近畿圏からの家族連れ+屋島+うどんの組み合わせを一貫して指し示している。県の調査でも2人以上で旅行する人の同伴者のうち6割近くが家族。
- 次のアクション
- 翌日のフィールドワークで屋島を実地踏査。ペルソナの視点で現地を歩き、ベビーカーで通れる道・うどん体験の対象年齢・所要時間を自分の目で確認する。
