観光マーケティング実践コース
~第7話 三つの顔を持つ島 ── 女木島取材~
屋島エリアをペルソナ(たった一人の理想のお客様像)の林田家の目線で歩き、ベビーカーの動線や段差を自分の足で確認した。さぬき体験工房では藤原の音楽付きうどん踏み体験に出会い、「うどんダンダンダンス」と仮称をつけた。AIに問い合わせたモデルコースには、有料の駐車場を「無料」とし、階段のある展望台ルートを「全区間バリアフリー」とする誤りが混じっており、一次情報(自分の目で確かめた事実)でしか見抜けない誤りが混じることを体感した。
比較取材の提案
屋島取材の翌日。せとうちマーレブルの事務所で、宮本が昨日のフィールドノートを広げながら提案した。






宮本が昨日撮った写真をフィールドノートに貼りながら、女木島の見どころを指で差していく。地元を知り尽くした宮本の直感と、神谷のマーケティング経験が噛み合った。比較対象を持てば、屋島の強みが浮かび上がる——二人の視点が重なった瞬間だった。
高松港から女木島へ
高松港からフェリーに乗った。港を離れると、初夏の日差しを受けた穏やかな青緑の海面が広がった。右舷の遠くに屋島の台地が霞んで見える。振り返ると、高松の市街地がゆっくり小さくなっていく。
20分の船旅だ。昨日歩いた屋島が、海の向こうから見ると違う形に見える。上からではなく、横から見る屋島。宮本が指を差した。

フェリーが女木島の港に着いた。高い自然石積みの壁と暗赤褐色の木質ルーバーでできた「鬼ヶ島おにの館」の上に、空へ弧を描く細い赤色の鉄骨が伸びている。防波堤の上には白い風見鶏風のオブジェが一列に並んでいた。小さな港に降り立った瞬間から、この島には独特の空気が漂っている。
宮本が防波堤に沿って歩きながら、指でオブジェの列を差した。白い鳥のような形が一定間隔で並んでいる。


昔話とポップカルチャー(映画・まんが・アニメなど、広く大衆に親しまれている文化)が重なる洞窟
港からバスで山腹の鬼ヶ島大洞窟へ向かった。太い注連縄と白い紙垂の下に、石段で下りていく低い入口が開いている。周囲にシダ類が茂り、入口から冷たい空気が流れ出していた。
【シーン】初夏の昼、鬼ヶ島大洞窟の内部。小型の暖色灯が粗い掘削痕の岩肌をオレンジに照らし、通路の奥に赤い鬼の像のシルエットが浮かぶ。神谷と宮本が通路を歩いている。 【ロケーション固定】kagawa_16_megijima に厳密準拠。第一参照=angle_cave.png、第二参照=angle_cave_hall.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png、kagawa/characters/宮本彩設定画像.png。 【人物】神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、スマートフォンを片手に持ちながら洞窟内を見回している)。宮本彩(24歳・女性、ティール~海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、通路の先を指さしながら説明している、マスタードイエローのフィールドノートを脇に挿んでいる)。 【構図】洞窟の通路を奥に向かって歩く二人を斜め後方から捉える。手前に岩壁の質感、奥に小型暖色灯で照らされた鬼の像のシルエット。天井は低く、粗い掘削痕と岩柱・石積みが連続して圧迫感があり、通路は緩やかにカーブしている。 【小物】宮本のマスタードイエローのフィールドノート。神谷のスマートフォン。通路沿いに点在する小型の暖色灯(連続する埋込フットライトにはしない)。 【ロケーション整合】kagawa_16_megijima:港の「おにの館」(高い自然石積みの壁+不規則な深い開口+暗赤褐色の複数ボリューム+左右で高さと角度が異なる赤い細鉄骨)、防波堤先端の片手を額にかざす白い花崗岩の鬼像+別柱の小型灯器(金棒を持つ直立像・白い円筒灯台にはしない)、島の暮らしを示すオーテ(石積みの防風壁)、鬼ヶ島大洞窟の入口(太い注連縄と白い紙垂の下へ石段で下る低い開口+灰緑色の風化岩と濃い植生)+内部の低い天井・粗い掘削痕・岩柱・小型暖色灯に浮かぶ抽象化した鬼の像、標高約188mの樹木に縁取られた素朴な鷲ヶ峰展望地点(土・小石・風化コンクリートの園地)から見る女木港・高松市街・屋島・男木島を含む瀬戸内海、ティール〜コバルトの穏やかな海面。 【色調】洞窟内の暗い背景に小型暖色灯のオレンジが映える。岩肌は灰褐色で粗い掘削痕が残る。鬼の像は赤系。全体として暗めのトーンだが、小型暖色灯のポイントライトが視線を誘導する。 【避ける】読める実テキスト、商標、実在ロゴ。洞窟内の鬼像・鬼瓦の写実的な再現(シルエットまたは抽象化で表現)。白壁と木製切妻庇のおにの館、直立して金棒を持つ巨大鬼灯台、赤い円筒灯台、広く高く均一に整備された洞窟、連続する埋込フットライト、磨かれた洞窟床。他の観光客の顔。
洞窟内に入ると、暖色のLED照明が岩肌をオレンジに照らし、通路の奥に赤い鬼の像のシルエットが浮かび上がっていた。外の暑さが届かない、ひんやりした空気が肌に触れる。奥行約400mの通路を、二人で歩き始めた。


洞窟の奥の広間を抜けて、再び狭い通路に戻ったとき、宮本が声をひそめた。




神谷はスマートフォンの電波を確認した。圏外だった。洞窟の中にいる限り、ネットで調べることもできない。目の前にあるのは岩肌と照明と鬼の像だけだ。


洞窟の出口に近づくと、外の光が通路の先に白く差し込んでいた。約400mの暗い通路を歩いている間に、二つの全く異なる客層がこの場所を訪れていることが見えてきた。
三つのメモ
【シーン】初夏の昼過ぎ、鷲ヶ峰展望台。土・小石・風化したコンクリートが混じる素朴な山頂園地の展望地点から、木々と桜に縁取られて瀬戸内海がほぼ360度見渡せる。神谷が展望地点の低い柵際でスマートフォンにメモを打っている。宮本が隣でフィールドノートを開いている。遠くに屋島の台地のシルエット。 【ロケーション固定】kagawa_16_megijima に厳密準拠。第一参照=angle_summit.png、第二参照=master.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png、kagawa/characters/宮本彩設定画像.png。 【人物】神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、展望地点の低い柵際でスマートフォンにメモを打っている、風で髪が少し乱れている)。宮本彩(24歳・女性、ティール~海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、フィールドノートを開いて書き込んでいる)。 【構図】樹木に縁取られた展望地点から瀬戸内海の島々と海面を望む。手前に神谷と宮本。中景にティール〜コバルトブルーの海面。遠景に屋島の台地と高松市街のシルエット。風が強く、二人の髪と宮本のウィンドブレーカーが風になびいている。 【小物】神谷のスマートフォン。宮本のマスタードイエローのフィールドノートとペン。足元の低い位置に置かれた小さな方位図(巨大な独立方位盤にはしない)。 【ロケーション整合】kagawa_16_megijima:港の「おにの館」(高い自然石積みの壁+不規則な深い開口+暗赤褐色の複数ボリューム+左右で高さと角度が異なる赤い細鉄骨)、防波堤先端の片手を額にかざす白い花崗岩の鬼像+別柱の小型灯器(金棒を持つ直立像・白い円筒灯台にはしない)、島の暮らしを示すオーテ(石積みの防風壁)、鬼ヶ島大洞窟の入口(太い注連縄と白い紙垂の下へ石段で下る低い開口+灰緑色の風化岩と濃い植生)+内部の低い天井・粗い掘削痕・岩柱・小型暖色灯に浮かぶ抽象化した鬼の像、標高約188mの樹木に縁取られた素朴な鷲ヶ峰展望地点(土・小石・風化コンクリートの園地)から見る女木港・高松市街・屋島・男木島を含む瀬戸内海、ティール〜コバルトの穏やかな海面。 【色調】初夏の午後の強い日差し。ティール~コバルトブルーの海面が主調。空は明るい水色。屋島のシルエットは青灰色。宮本のティールのジャケットが海の色と呼応する。 【避ける】読める実テキスト、商標、実在ロゴ。他の観光客の顔。方位図の文字の写実的再現。巨大で均整の取れた展望デッキ、中央に置く直径1.5mの独立コンクリート方位盤、航空写真のような山頂眺望。
洞窟を出て、鷲ヶ峰の展望台へ登った。標高約187m。土と小石と風化したコンクリートが混じる素朴な山頂の園地で、低い柵の際に立つと、木々の切れ目から瀬戸内海のパノラマが広がった。南に高松市街、南東に屋島の台地、北に男木島、北東に小豆島の島影。どの方角を向いても、ティールからコバルトブルーに変わる穏やかな海面と島々が見える。風が強く、初夏の潮の香りが吹き上げてきた。
神谷は足を止めた。柵に肘をつき、しばらく黙って海を眺めた。それからスマートフォンを取り出して、三つのメモを打ち始めた。
一つ目、「昔話(鬼ヶ島伝説)」。二つ目、「現代のポップカルチャー(アニメ聖地巡礼)」。三つ目、「自然景観(瀬戸内海パノラマ)」。




宮本がフィールドノートにメモを取り始めた。神谷の三つのメモと同じ内容を、自分の言葉で書き直している。二人の視点が、同じ結論に達している。
切り口の整理
船に戻って電波が入ると、神谷は洞窟名のハッシュタグを検索した。作品名を添えた投稿がいくつも並んでいる。推測は、確かめられた事実に変わった。
帰りのフェリーの船内で、西園寺にオンラインで報告した。神谷が三つのメモを見せると、画面の向こうの西園寺がゆっくり頷いた。





【種類】詳細切り口図。女木島の共通素材を中央に集め、昔話・ポップカルチャー・自然景観の3企画へ展開し、林田家には自然体験と冒険としての歴史を優先する。
西園寺が話をペルソナに向けた。








フェリーの窓の外で、高松港が近づいてきた。女木島が遠ざかるにつれて、あの島全体がひとつの教材のように見えてきた。歴史、ポップカルチャー、自然——同じ島が、来る人によって三つの違う顔を見せる場所。
屋島にも、三つある

神谷が言いかけたとき、宮本のスマートフォンが鳴った。事務所にいる北村からだった。

宮本がスピーカーフォンに切り替えた。オンラインでつながったままの画面の向こうの西園寺にも、北村の声が届いている。
北村が電話越しに、興奮気味に声を上げた。



結局、この日は誰も、まとめて呼ぶ言葉を使わなかった。北村は具体的なものを自分の言葉で列挙しただけだ。源平合戦の歴史、瀬戸内海の自然、藤原の音楽付きうどん踏みの体験——前回1ルートに絞り込んだ屋島×うどんの中にも、三つの切り口がある。名前がなくても、話は通じていた。
【種類】詳細切り口図。屋島とうどんの共通素材から、歴史・自然・体験の3企画へ展開し、林田家には踊るうどん踏み体験を強調する。


電話越しの北村の声に、いつもの力強さが戻っていた。前回の絞り込みで「全部紹介したい」と葛藤した北村が、今は1ルートの深さに自信を持ち始めている。
フェリーが高松港に着いた。タラップを降りると、初夏の陽が西に傾き始めていた。女木島の形が、港の向こうに小さく見える。今日一日で歩いた場所はたった一つの島だったが、見つけたものは屋島に持ち帰れる。
📌 覚えるポイント
- 1つの観光対象は、来る人の関心によって別々の価値を持つ。歴史好き・アニメファン・自然派——見る人が変われば、同じ場所から受け取るものが変わる。切り分けるのは場所の特徴ではなく、来る人の側。切り口の数に決まりはなく、女木島がたまたま三つだっただけ
- 作品をきっかけに人が旅に出る動きには、すでにコンテンツツーリズムという名前がある。名前のある現象に自分たちで新しい言葉を作らず、通じる呼び方に乗せたほうが、外の相手と話が早い
- 本命のルートだけを見ていると、その強みには気づけない。別のエリアを自分の足で歩いて比べると、本命の独自性と弱点の両方が浮かび上がる。比較対象を持つこと自体が、企画の精度を上げる手段になる
- ルートを増やさなくても、前面に出す切り口を選び直せば深さで勝負できる。屋島×うどんの1ルートにも「源平合戦の歴史」「瀬戸内海の自然」「踊るうどん踏みの体験」があり、林田家なら自然と体験が入口になる
📖 覚える用語
- コンテンツツーリズム
- 作品をきっかけに人が旅に出ること。映画・ドラマ・小説・まんが・アニメなどの作品を通して生まれた物語性を、観光の資源として活用する考え方を指す。作品の舞台を訪ねる「聖地巡礼」もこれにあたる。すでに名前のある現象は、自分たちで言葉を作らずにその名前で呼ぶ。
- 女木島の比較取材を完了
- 高松港からの往復のフェリーを挟むと、洞窟と展望台を回るだけで丸一日かかった。比べてみて分かったのは、女木島は船に乗る分だけ移動が一日仕事になるということ。未就学のお子さんがいる林田家には、陸路でそのまま向かえる屋島のほうが動きやすい。屋島の強みが「近さ」でもあると言い切れるようになったのは、別のエリアを自分の足で見てきたからだった。
- 三つの切り口の使い方を整理
- 「別のものを3つ用意する」話ではなく、同じ場所の見せ方を3通り持つという話。切り分けは、場所の特徴ではなく来る人の関心のほうで切る。この基準さえ押さえておけば、1回の取材で撮った写真も聞いた話も3通りに使い回せるので、素材づくりの手間はむしろ減る。
- 屋島への応用
- 三つの切り口のうち、いま手元に素材が揃っているのは歴史(北村さんの源平の語り)と体験(藤原さんのうどん踏み)の二つ。自然は、前回の屋島取材が日中だったため、夕方の景色をまだ押さえられていない。次は夕方の時間帯に一度歩いたうえで、三つをどの順番で見せるかまで決めたモデルコースの素案を作る。
