観光マーケティング実践コース
~第8話 2つの媒体で、1本の川をつくる~
宮本の提案で、屋島との比較取材として高松港からフェリーで女木島(鬼ヶ島)へ渡った。桃太郎伝説の洞窟、アニメの聖地巡礼スポット、瀬戸内海の360度パノラマ——同じ島が、来る人の関心によって三つの違う顔を見せていた。西園寺は「切り分けるのは場所ではなく、来る人の関心の側」と整理し、聖地巡礼にはコンテンツツーリズム(作品をきっかけに人が旅に出ること)という既存の名前があることを教えた。北村が「屋島だって負けていませんよ。歴史に、自然に、踊るうどん踏み——屋島にも三つあるんですよ」と応用した。広げるのではなく、深さで勝負する。
素材の整理 ── 取材の収穫をテーブルに広げる
【シーン】初夏の午前、せとうちマーレブルの事務所。会議テーブルの上に、屋島や女木島の取材素材(写真のプリント・メモ用紙・スケッチ・動画クリップの一覧表)が広げられている。宮本がホワイトボードの前に立ち、赤・青・黒のマーカーで3列に書き分けている。神谷と北村がテーブル脇のスタッキングチェアに座り、素材を手に取りながら見ている。 【ロケーション固定】kagawa_13_marble_office に厳密準拠。第一参照=angle_board.png、第二参照=angle_meeting.png。 【キャラクター参照】kagawa/characters/宮本彩設定画像.png、kagawa/characters/神谷悠馬設定画像.png、kagawa/characters/北村裕設定画像.png。 【人物】宮本彩(24歳・女性、ティール~海色のライトウィンドブレーカー、淡いライトブルーのポロシャツ、暖色系ダークチェスナットブラウンのミディアムヘアを青緑色のシュシュでポニーテール、黒いマーカーを手に持ちホワイトボードに書き込んでいる)。神谷悠馬(27歳・男性、ネイビー系スーツ、白シャツ、ネイビー無地ネクタイ、黒い短髪、テーブルの素材を見ながらメモを取っている)。北村裕(62歳・男性、ライトブルーのボタンダウンシャツ、ベージュのチノパン、細い銀灰色の眼鏡、スタッキングチェアに座って写真のプリントを手に取っている)。 【構図】手前に会議テーブル上の素材群、中景にホワイトボード前の宮本、テーブル脇にスタッキングチェアに座る神谷と北村。窓から初夏の自然光が差し込む。 【小物】テーブル上の写真プリント・メモ用紙・スケッチ類・動画クリップ一覧表。宮本の黒いマーカー。ホワイトボードに赤・青・黒で書かれた3列。北村の波模様マグカップ。宮本のマスタードイエローのリングノート。 【ロケーション整合】kagawa_13_marble_office:奥壁の2連窓下に前縁をそろえて横一列に並ぶ同一仕様・同一寸法(約140×70cm)の薄いグレーのメラミン天板デスク2台(左の北村デスクに黒いデスクトップPCモニター+クリアファイルの山+波模様マグカップ、右の宮本デスクに白ノートPC+マスタードイエローのリングノート+付箋付きサブモニター)、右壁側の窓とラックの間に置く約180×90cmの横長キャスター付き自立式ホワイトボード(赤・青・黒の抽象的な海岸線・清掃地点・工程枠+マーカー3本+イレーサー)、手前右のオーク調中古会議テーブル(約140×80cm)+チャコールグレーの事務用スタッキングチェア3脚(+右壁際に重ねた予備1脚)、奥壁の引き違い窓2連(白いアルミサッシ、右窓から自然光+外に高松市内の中層ビルと空)+窓間のコルクボード(60×45cmの木枠、色数を抑えたピンで留めた小さな風景写真・無地の表・予定カード)、右壁のグレーのスチールラック4段(上段に白い防災ヘルメットと双眼鏡、中段に白・水色・グレーのファイルボックスとA4バインダー、下段に段ボール箱・青い再利用コンテナ・清掃用トング・緑の作業手袋)。 【色調】窓からの初夏の自然光が白・グレー基調の事務所を明るく照らす。テーブル上にカラフルな取材素材が散らばり活気がある。宮本のティールジャケットと北村のライトブルーシャツが空間のアクセント。 【避ける】読める実テキスト、商標、他人物、写真風の質感。
女木島の取材から数日が経った。せとうちマーレブルの事務所の会議テーブルに、これまでの取材素材が広げられていた。屋島で撮った写真のプリント、さぬき体験工房のフィールドノートのメモ、女木島のスケッチ、動画クリップの一覧表。屋島の獅子の霊巌から撮った瀬戸内海のパノラマ写真、女木島の洞窟内部のスケッチ、藤原の体験工房でのうどん踏み体験のメモ。整理しきれないほどの素材が、テーブルの上に散らばっている。
窓から初夏の強い日差しが差し込む中、宮本がホワイトボードの前に立ち、赤・青・黒の3色のマーカーを手に取った。



宮本が手際よくホワイトボードに3列を書き出していく。赤で「写真」、青で「テキスト」、黒で「動画クリップ」。素材が整理されるにつれて、数日間の取材が確かな収穫として可視化されていった。写真の列には数十枚、テキストの列にはキャッチコピーの案やメモが並び、動画クリップの列にも短い映像の一覧が連なっている。3人の表情が自然と明るくなる。
同時進行か、順番か
素材の全体像が見えてきたところで、神谷が次の一手を切り出した。


神谷は当然の提案だと思った。素材は揃っている。小冊子も動画も、同じ取材素材から作るのだから、並行して進めた方が効率的に思える。事務所のノートPCに接続したオンライン画面の中で、西園寺が静かに首を振った。






【種類】概念図(比較図)。人物は描かない。 【構図】画面を左右に2分割。左側に小冊子のアイコン(冊子のシルエット)と「確定情報」の見出し。その下に「地図・料金・アクセス・営業時間」の4項目を箇条書き風に配置し、最下部に「正確さが命」のラベル。右側に動画のアイコン(再生ボタン付き画面のシルエット)と「感情」の見出し。その下に「映像・音楽・ストーリー」の3項目を配置し、最下部に「感情が命」のラベル。中央に縦の区切り線。 【補助】全体タイトル「2つの媒体の役割──正確さと感情」。 【色調】小冊子側はティール系の落ち着いたトーン、動画側はコーラル系の暖かいトーン。背景は白。 【避ける】人物の顔、実在ロゴ、写真風の質感。
神谷は、小冊子と動画の違いを頭の中で整理した。確定情報を正確に届ける小冊子と、「行きたい」を生み出す動画。求められる品質の方向がまるで違う。それを同時に走らせたら、確かにどちらも中途半端になりかねない。スタッフが実質2人のせとうちマーレブルで、頭の切り替えが追いつかなくなるのは目に見えている。

ペルソナの情報接触パターン
同時進行の危険がわかったところで、ではどちらを先に作るのか。その問いに答えるために、神谷は以前に描いたカスタマージャーニー(お客様が知ってから来てくれるまでの道のり)のメモを引っ張り出した。





【種類】概念図(フロー図)。人物は描かない。 【構図】上下2段のフロー。上段にフェリーのシルエットアイコンと「船内パンフレットラック」のラベル、矢印で「小冊子を手に取る」へ接続。下段に家のシルエットアイコンと「帰宅後」のラベル、矢印で「Instagramで動画を見る」へ接続。上段と下段を結ぶ大きな下向き矢印に「小冊子が先、動画が後」のラベル。 【補助】全体タイトル「ペルソナの情報接触パターンから決めるメディア順序」。下部に注釈「届ける順番は、届けたい相手の行動から逆算する」。 【色調】上段(小冊子)はティール系、下段(動画)はコーラル系。矢印はダークグレー。背景は白。 【避ける】人物の顔、実在ロゴ、写真風の質感。
スマートフォンの画面で偶然出会う動画と、旅の計画中に手元で開く小冊子。同じペルソナでも、触れる場面が違えば求める中身も違う。だからこそ、届ける側が役割と順番を設計しなければならない。西園寺が画面越しに頷いた。



クロスメディア(媒体ごとに役割を割り振り、次の媒体へ受け渡す順番まで設計する戦略)。小冊子から動画へという制作順は、動画の台本が確定情報を必要とすることから導かれた結果だった。「何を作るか」だけでなく「どの媒体から次のどこへ渡すか」まで設計する。順番には、きちんとした理由がある。神谷は、カスタマージャーニーのメモに「クロスメディア」と赤で書き加えた。
外部パートナーとの連携
メディアの順番が決まったところで、続けて西園寺がもう一つ重要な論点を切り出した。画面越しの表情が、少し真剣になった。





北村は腕を組んで黙った。長年、地域の観光を自分の手で何とかしたいと走り続けてきた。マーレブルを立ち上げたときから、企画も制作も発信も、できる限り自分たちの手でやってきた。全部自分たちでやりたいという気持ちは本物だ。だが数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。



【種類】概念図(分担図)。人物は描かない。 【構図】左から右への3段階フロー。左「知ってもらう(小冊子)」、中央「惹きつける(動画)」、右「動いてもらう(旅行会社ツアーページ)」。左と中央を囲む点線枠に「せとうちマーレブルの担当」のラベル。右を囲む別の点線枠に「旅行会社の担当」のラベル。各段階を矢印で接続。 【補助】全体タイトル「カスタマージャーニーの役割分担──全部自前でやらない」。下部に注釈「得意な部分をそれぞれが担い、外部と連携する」。 【色調】せとうちマーレブル担当範囲はティール系、旅行会社担当範囲はアンバー系。矢印はダークグレー。背景は白。 【避ける】人物の顔、実在ロゴ、写真風の質感。
カスタマージャーニーの流れが、3つの担当に整理された。小冊子で「知ってもらう」、動画で「惹きつける」、旅行会社のツアーページで「動いてもらう」。全部自分たちでやるのではなく、それぞれの得意を活かして連携する。スタッフが実質2人のせとうちマーレブルだからこそ、集中すべき領域を絞り、それ以外は信頼できるパートナーに任せる。限られた人数で最大の成果を出すための設計だ。
「1本の川」 ── 制作計画の完成
制作の順番が決まり、役割分担も整った。宮本がホワイトボードの3列の素材リストの下に、「小冊子→動画→ツアーページ」の流れを矢印で書き足した。取材素材から始まって、小冊子、動画、そして旅行会社のツアーページへ。一本の線でつながった流れが、ホワイトボードの上に浮かび上がった。北村が立ち上がり、ホワイトボードを見つめながら、ぽつりとつぶやいた。




【種類】概念図(フロー図)。人物は描かない。 【構図】川のメタファーを用いた横長のフロー図。左端に「取材素材」のボックス(写真・テキスト・動画クリップのアイコン3つ)を川の源流として配置。そこから右へ川が流れ、上流に「小冊子」(冊子アイコン+「確定情報を正確に」のラベル)、中流に「動画」(再生ボタンアイコン+「感情を動かす」のラベル)、下流に「ツアーページ」(Webページアイコン+「行動につなげる」のラベル)。川の流れに沿って「同じ素材が媒体を渡り歩く」の注釈。 【補助】全体タイトル「1本の川──同じ素材が媒体を流れる制作フロー」。下部に注釈「作り直しではなく、積み上げ」。 【色調】川をティール系のグラデーションで表現。各媒体ボックスは白背景にティール・コーラル・アンバーの枠線。全体は明るく開放的なトーン。 【避ける】人物の顔、実在ロゴ、写真風の質感。
宮本がホワイトボードに制作スケジュールの骨格を書き始めた。まず小冊子の原稿作成、次に動画の台本と撮影、最後に旅行会社への連携依頼。横で見ていた北村が、小さく頷いている。西園寺もオンライン越しに画面を見つめ、静かに微笑んでいた。
気づけば、事務所の白い壁に西日が長く伸びていた。テーブルに広がった取材素材が、これから流れ始める川の源流に見えた。屋島の写真も、女木島のスケッチも、藤原の体験工房のメモも、すべてが一本の流れの中に位置づけられた。1本の川が、2つの媒体をつなぎ、やがてお客様の手元に届く。制作計画の骨格が、今日この事務所で完成した。
📌 覚えるポイント
- 小冊子は地図・料金・アクセス・営業時間といった確定情報を正確に伝え、動画は「行きたい」という感情を動かす。役割の違う媒体を同時に作ると、どちらも中途半端になる
- 小冊子で情報を確定させてから、その土台の上に動画の台本を作る。作り直しではなく積み上げだから、順番そのものに意味がある
- 届く順番と作る順番は分けて決める——林田家に先に届くのは動画(Instagram)だが、動画の台本は小冊子で固めた確定情報を前提にするため、制作順は小冊子→動画になる
- 取材で集めた写真・テキスト・動画クリップは、小冊子にも動画にも流用できる。ただし素材を使い回すこと自体は目的ではない。次の媒体へどう受け渡すかを設計してはじめて、ばらばらの制作物がひとつの流れになる
- 「知ってもらう」「惹きつける」は自分たちが担い、「動いてもらう」(予約・催行)は旅行会社に任せる。役割分担の都合だけではなく、報酬を得て旅行の企画や手配を行うには旅行業法の登録が必要という法律上の理由がある
- 素材を整理し、各媒体の役割と制作順序を決めてから取りかかる。計画なしに作り始めると手戻りが増え、限られた人数では回しきれなくなる
📖 覚える用語
- クロスメディア
- 同じ素材を、媒体の特性と順番を揃えて複数の媒体(紙・動画・SNS等)に展開する戦略。闇雲に媒体を増やすのではなく、各媒体の役割と届ける順番を設計することが重要。
- 制作計画の骨格を確定
- 取材素材を「写真」「テキスト」「動画クリップ」の3種に整理し、小冊子→動画→旅行会社ツアーページの3段階で同じ素材を流す制作フローを設計した。まず小冊子で確定情報を固め、その土台の上に動画の台本を構築する「積み上げ」方式を採用。
- クロスメディア戦略を整理
- 小冊子は正確さが命の「確定情報メディア」、動画は『行きたい』という感情を動かす媒体と位置づけ、同時進行ではなく順番に制作する方針を確認(順番の根拠は、動画台本が小冊子の確定情報を前提にすること。届く順番は動画が先でも、作る順番は小冊子が先になる)。
- 外部連携の設計
- 「知ってもらう」(小冊子)と「惹きつける」(動画)はせとうちマーレブルが担当し、「動いてもらう」(予約・催行)は旅行会社に委ねる方針を確認。全部自前でやるのではなく、得意分野で役割を分担することで、お客様にとっての質を上げる。なお、この分担は法律上の前提でもある。旅行の企画・手配を報酬を得て行うには旅行業の登録が必要で、当法人は登録を持たないため、募集・予約・催行は登録のある旅行会社に委ねる。
