Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第6話 この曲、使っていいんですか?~

前回のあらすじ

AI文字起こしによるテロップ制作に取り組み、固有名詞の誤変換を手動修正した。テロップのデザインとスマートフォンでの文字サイズ調整を経て、宮本が「テロップの修正、私がやります」と動画制作ワークフローに一歩踏み込んだ。

フリー素材BGMの落とし穴

事務所のPCモニターにフリー素材の利用規約が表示され、神谷と宮本が商用不可の条件を確認している場面

テロップの修正作業が一通り済み、動画はほぼ完成していた。映像にナレーションとテロップが載り、15秒ショート版と60秒フル版の両方が形になっている。残る工程はBGMを載せて公開するだけだ。宮本が以前見つけたフリー素材サイトのBGMが仮で入れてあった。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
神谷くん、公開の前に確認しておきたいことがあるの。動画に仮置きしているBGM、どこから取ってきたの?
宮本彩の表情アイコン
宮本
フリー素材のサイトからダウンロードしました。無料だったので、映像の雰囲気に合うものを選んで仮で入れてあるんです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
「フリー」というのは「無料」という意味よ。「自由に使っていい」という意味ではないの。利用規約は確認した?

神谷がフリー素材サイトの利用規約ページを開いた。画面をスクロールしていくと、小さな文字ではっきりと書かれている。「本サイトの音源は個人利用に限ります。商用利用は禁止です」

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
商用不可……。NPOの観光PR動画は商用利用にあたりますよね、西園寺さん
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そうよ。この規約は「本サイトの音源は個人利用に限ります」と書いてあるでしょう。団体の名前で出す広報物は、無料で配っていても個人利用にはあたらないの。ただし、どこまでを「商用利用」と呼ぶかはサイトごとに定義が違うわ。自分たちの使い方が規約のどの区分に入るのかを、その規約の言葉で確かめるのよ。デザイン実践のとき、写真のフリー素材で同じ確認をしたの、覚えてる? 写真だけじゃなく、音楽にも同じルールが適用されるのよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
写真のときは気をつけたのに、音楽にまで同じルールがあるとは考えが及んでいませんでした
宮本彩の表情アイコン
宮本
「フリー」って聞くと、なんでも自由に使えると思い込んでしまいますよね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
「クレジット表記必須」「加工禁止」「非営利に限る」——条件はサイトごとに違うの。ダウンロードする前に、必ず利用規約を開くことを習慣にしましょう

「フリー素材」の「フリー」は「無料」を意味しているだけだ。「自由に使える」「好きなように加工できる」という意味ではない。ダウンロードの手軽さに惑わされず、利用条件を確認する。写真で学んだこのルールは、音楽にもそのまま当てはまった。

「あ、この子……」──映り込んだ肖像権

1つ目の問題が見つかった直後、念のため撮影素材を最初から見返すことにした。宮本がタイムラインをスクロールしていく。あるカットで、宮本の手が止まった。

宮本彩の表情アイコン
宮本
あ、この子……。神谷さん、このカット見てください。引きのショットの奥に、もう1組の家族連れの子どもが映っています
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
本当だ……。撮影のとき、工房の奥の作業台で体験していた家族ですね。同意書をもらったお母さんと子どもは手前の組で、この家族には声をかけていません
宮本彩の表情アイコン
宮本
Bロール(差し込み用に撮った別カット)の背景にも同じ子どもが映っているカットがあります

撮影当日、神谷と宮本は同意書をもらった親子に集中していた。画面の端にいた別の家族のことは意識していなかった。丁寧にやったつもりでも、見落としは起きていた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
撮影のとき、あのお母さんと子どもにはちゃんと同意書をもらいましたよね。それなのに……
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
はい、同意書をもらった1組は問題ありません。でも同意を取っていない別の家族が画面に映っていた。「同意を取った相手」だけでなく「画面に映る可能性がある全員」のことまで考えが及んでいなかったんです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
子どもの肖像権は大人以上に慎重な配慮が必要なの。肖像権は条文で決まっているものではなくて、裁判所が「どこまでなら我慢すべき範囲か」を場面ごとに判断してきた権利なのよ。だから同意のない映像を公開するのは、争いになったときに拠り所がない賭けになるの。保護者の許諾——モデルリリース(撮影対象者の肖像使用許諾書)を書面でもらっておくのが、実務では確実な進め方ね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
神谷くんが不注意だったわけじゃないの。同意を取った1組と、気づかず映り込んでいた1組が同じ日・同じ場所にいたの。善意で丁寧にやっても漏れるのよ。問題は人の注意力ではなく、仕組みがないことなの

「その曲、誰のもの?」──収録音と著作隣接権

フリー素材BGM・子どもの映り込み・収録音の3つの権利問題とその対処法を整理した概念図

2つの問題が見つかり、神谷の心は騒いでいた。BGMの権利問題に加えて、映り込みの肖像権まで。そのとき、西園寺がさらに音声に気づいた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
もう1つ確認させて。この映像の音声をよく聴いてみて。後ろで曲が流れていない?

神谷がヘッドフォンを当てて映像の音声トラックを聴き直した。ナレーションの裏に、うっすらとポップスが聞こえる。撮影時、工房で藤原がスピーカーから流していた市販曲だ。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
はい、これは藤原さんが工房でいつも流している音楽です。撮影のとき、ナレーションが聞き取りにくかったので、ナレーションは別撮りにして解決しました
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ナレーションの問題は解決したかもしれないけれど、この曲のことよ。映像の音声トラックに市販のポップスがそのまま残っているでしょう? その曲、誰のもの?

撮影時、神谷は「ナレーションが聞き取りにくい」という収録上の問題としか認識していなかった。ナレーションを別撮りにしたことで音声の問題は解決したと思い込んでいたが、映像に残っている市販ポップスの権利はまったく別の問題だ。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
後から足すBGMの権利は気にしていましたが、撮影現場で録れてしまった音にも権利があるんですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
あるのよ。後から選んで足すBGMと、現場で意図せず録れてしまった音——どちらも他人の著作物なの。市販の曲が映像に録音されると、作詞・作曲の著作権だけでなく、演奏した実演家やレコード会社の権利——これを著作隣接権、レコード会社のものはとくに原盤権と呼ぶの——にも関わってくる。無断で公開はできないわ
宮本彩の表情アイコン
宮本
藤原さんが工房でいつも音楽をかけているのは知っていましたけど、それが撮影した映像の権利問題になるなんて思ってもいませんでした

3つ目の問題だった。BGMの商用利用条件、映り込んだ子どもの肖像権、そして収録音に含まれる市販曲の権利。後から選んで足す音も、現場で意図せず録れた音も、他人の著作物であることに変わりはない。1つ見つけたら安心ではなく、複数の権利を横断的にチェックする視点が必要だった。

Sunoで音楽を作る──AI生成物の権利

事務所のPCでAI音楽生成ツールを操作する神谷と、ヘッドフォンで生成された曲を試聴する宮本の場面

3つの問題が出揃った。西園寺が解決策を整理する。映り込みのカットは差し替えるとして、BGMと収録音の問題はまとめて対処できる。元の音声トラックから市販曲を落とし、新たにBGMを用意すればいい。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
BGMの問題と収録音の問題は根が同じよ。元の音声トラックを落として、商用利用できるBGMに差し替えましょう
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
僕からひとつ提案があります。Suno(AI音楽生成)というツールを使って、オリジナルの楽曲を作れないでしょうか。「スーノ」と読みます。テキストでイメージを伝えると、AIが曲を生成してくれるツールなんです
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいアイデアね。試してみましょう

神谷がSunoの画面を開き、プロンプト(AIへの指示文)を入力した。「さぬきビートの足踏み体験に合う、テンポのいいポップス。明るく楽しい雰囲気。60秒」数十秒の処理の後、画面に複数のオリジナル楽曲が並んだ。

宮本彩の表情アイコン
宮本
すごい……こんな短い時間で曲ができるんですね。どれも全然違う雰囲気です

宮本がヘッドフォンで順に試聴していく。3曲目のアップテンポな楽曲で、宮本の表情がぱっと明るくなった。

宮本彩の表情アイコン
宮本
この3曲目、さぬきビートの映像にぴったりです。でも……これって著作権は大丈夫なんですか?
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
大事な質問ね、宮本さん。Sunoには、生成した曲の商用利用を認める有料プランがあるの。ただし何がどこまで認められるかはプランと利用規約によるし、規約は改定されるわ。だから使う前に、そのときの規約を必ず開いて確認するのよ
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
AIが生成したものにも、いまの著作権法はそのまま当てはまるのよ。国も令和6年に考え方を整理していて、生成された曲が既存の曲に似ていれば侵害になりうるし、人の創作的な関与がなければそもそも著作物として保護されないこともあるの。そのうえで、あなたがその曲を商用に使っていいかどうかは、著作権法ではなくサービスの利用規約——あなたとサービス提供者の約束——で決まるわ。だから使う前に必ず規約を確認するのよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
フリー素材のときと同じ構造ですね。ツールが便利でも、権利の確認は別の話だと
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そう。「使えるか」と「使っていいか」は違うの。これは音楽だけじゃなく、AIが生成したもの全般に当てはまるわ

利用規約を確認し、商用利用が認められるプランで生成していることを確認した。AI音楽生成は手軽で強力だが、「AIが作ったものだから著作権フリー」とは限らない。生成ツールの規約は変わることがあり、無料プランと有料プランで商用利用の条件が異なる場合もある。使う時点の規約を必ず確認し、記録しておく。3曲目に決定し、体験工房動画のBGMが、規約上この用途で使えるオリジナル楽曲に差し替わった。ただし「AIが作った曲だから完全に自由」ではない。生成された曲が既存の曲に似てしまう可能性はゼロではないし、AIが作ったものにそのまま著作権が生じるとも限らない。使えるのは、規約が認めた範囲までだと理解しておく。

「公開する前でよかった」

3つの問題はすべて解決策が見つかった。BGMと収録音はSunoのオリジナル楽曲に差し替え、映り込みのカットも別のカットに置き換えた。Sunoが生成したBGMがスピーカーから流れている。さぬきビートの足踏みにぴったりのテンポだ。


📌 覚えるポイント

  • 「無料」と「商用利用可」は別の条件。ダウンロードする前に利用規約を読み、「個人利用のみ」「クレジット表記必須」「加工禁止」といった制限を見落とさない
  • 撮影現場で流れていた市販曲が録れてしまった場合も、映像への写り込みと同じ規定(著作権法30条の2)で判断する。ごく短く小さく入っただけの「軽微な部分」なら認められることもあるが、今回のように曲が全編に入り踊りと一体の主役になっている場合はその範囲を超える。後から足すBGMとは別に権利処理が要る
  • 撮影同意は「撮りたい相手」だけでなく、画面に映り込む可能性のある全員を対象にする。子どもの場合は保護者の許諾(モデルリリース)を書面で残す。肖像権は判例法理で、書面がなければ争いのときに証明できない
  • 善意や注意深さでは、いつか漏れる。撮影前に同意を取る範囲を定めてチェックリストに落とし、仕組みとして運用する
  • Sunoなどのツールでオリジナル楽曲は作れるが、商用に使えるかどうかはプランと利用規約で決まる。「使えるか」と「使っていいか」は常に分けて確認する
  • BGMの利用規約、収録音に含まれる市販曲の有無、出演者の撮影同意書、背景への映り込み——この4項目を公開前に毎回チェックする

📖 覚える用語

Suno(AI音楽生成)
テキストプロンプト(AIに出す文章の指示)からオリジナル楽曲を生成するAIツール。商用利用の可否はプランと利用規約による。AI生成コンテンツの権利は法整備が追いついていない領域であり、使う時点の規約を必ず確認して記録しておく
著作隣接権(原盤権)
撮影現場で流れていた市販曲は、映像に「写り込んだ」のではなく「録れてしまった」もので、後から足すBGMとは別に権利処理が要る。対処は音声トラックを落として差し替えること
モデルリリース
撮影対象者の肖像使用許諾書。使用する媒体・使用期間・削除の条件を書面で明確にする。子どもの場合は保護者の書面による同意が必要で、口頭だけでは不十分
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
フリー素材BGMの権利問題と対応
仮置きしていたフリー素材BGMが「個人利用のみ・商用不可」であることが判明しました。同様に、撮影現場で録れていた市販曲の音声トラックも権利上使えません。両方の問題を解決するため、AI音楽生成ツール「Suno」でオリジナル楽曲を生成し、BGMを差し替えました
映り込んだ子どもの肖像権への対処
体験工房の撮影素材を確認したところ、撮影同意を取っていないもう1組の家族連れの子どもが背景に映り込んでいました。該当カットを別のカットに差し替えて対処しました
公開前の権利確認チェックリストの作成
今後の再発防止のため、BGMの利用規約・収録音の確認・出演者の撮影同意書・映り込みチェックの4項目からなる公開前チェックリストを作成しました。次回以降の撮影・公開時に運用します

まとめ

「使える」と「使っていい」は違う。フリー素材も、現場で録れてしまった音も、AIが生成した楽曲も、便利に手に入るものほど、使う前に権利と条件を確認する仕組みが要る。チェックリストを1枚作るだけで、公開前の安心が変わる。