Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第7話 どのSNSで、誰に届けるか~

前回のあらすじ

公開前の権利チェックでBGM著作権・子どもの映り込み・収録音に残った市販曲の著作隣接権という3つの問題が同時に発覚した。AI音楽生成ツールSunoでオリジナル楽曲を制作し、映り込みカットを差し替え、公開前チェックリストを整備した。

どのSNSで届けるか

事務所でオンライン通話中の前川さくらとSNSプラットフォームの選定について話し合う神谷と宮本

権利の問題をすべて解決し、動画はようやく公開できる状態になった。Sunoで生成したオリジナルBGMが載り、テロップも修正済みだ。15秒ショート版と60秒フル版の両方が完成している。あとは投稿するだけだ。しかし、肝心の「どこに出すか」がまだ決まっていなかった。SNSに投稿すること自体は決まっている。問題は、どのプラットフォーム(動画や写真を投稿できるサービス)を主戦場にするかだ。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
宮本さん、動画をどのプラットフォームに投稿するか、まだ決めていませんでしたよね。SNSのことなら、まるやまマートの駅前店でSNS発信を担当していた前川さんに相談してみませんか
宮本彩の表情アイコン
宮本
前川さん、SNSに詳しい方なんですね。ぜひお願いします

前川さくらとのオンライン通話がつながった。前川は現在もまるやまマートの駅前店でSNSとLINEの発信を担当している。店舗のSNSアカウントを日常的に運用している実務経験者だ。事務所にいた北村代表理事もデスクから画面を覗き込んでいる。完成した動画を画面共有で見てもらい、15秒ショート版と60秒フル版があることを伝えると、前川が3つのプラットフォームの特性を整理してくれた。

前川さくらの表情アイコン
前川
Instagram Reelsは、フォローしていない人への「おすすめ」配信が中心です。ハッシュタグやロケーションタグからも見つけてもらえますし、気になった投稿を保存したり、プロフィールから過去の投稿をたどって下調べする使われ方が多いんです。子育て層の利用率も高いので、旅行先を検討しているご家庭には届きやすいですよ
前川さくらの表情アイコン
前川
TikTokは、フォロワーがゼロでも「おすすめ」に表示される仕組みです。まだ知らない人に見つけてもらうための場所で、音楽と動きが命。短いほど強いんです
前川さくらの表情アイコン
前川
YouTube Shortsは、縦にスワイプする「ショート」の欄で流れます。TikTokと似た広がり方をしますが、チャンネルの長い動画やチャンネル登録への入口になるのが強みです。検索で長く見つけてもらう資産にしたいなら、同じ素材で横型の長い動画も置いておいて、Shortsからそちらへ送るのが定番ですよ
Instagram Reels・TikTok・YouTube Shortsの特性を比較し、ペルソナの情報収集経路と対応させた概念図
北村裕の表情アイコン
北村
全部に出すのでは、いけませんかね。せっかく作った動画なんですよ
前川さくらの表情アイコン
前川
お気持ちはわかります、北村さん。でも最初は「ここで当てる」を1つ決めるのがおすすめです。全部に出すと、どこで反応があったのかわからなくなるんですよ
前川さくらの表情アイコン
前川
いちばん届けたいご家族のこと、教えてもらえますか。……阪神間の子育て家庭で、Instagramで子連れ旅の情報を探しているんですね。それなら子育て層の利用率も高いですし、Instagram Reelsがメインでいいと思います!
宮本彩の表情アイコン
宮本
でも、さぬきビートは音楽と動きが核ですよね。TikTokでも出したら、まだ知らない人にも見つけてもらえるんじゃないですか
前川さくらの表情アイコン
前川
そう、そこなんです。Instagram Reelsで林田家のような子連れ家庭に「週末の行き先候補」として届けて、TikTokでは「まだ知らない人」に見つけてもらう。2つのチャネル(届けるための経路)を使い分けるんです

以前ペルソナ(たった一人の理想の視聴者像)として設計した「林田家」の情報収集経路と照合してみた。阪神間に住む30代の子育て家庭は、Instagramで子連れ旅の情報を日常的にチェックしている。だからInstagram Reelsが主戦場だ。一方、TikTokはさぬきビートという体験を「まだ知らない人」に発見してもらうためのチャネルだ。同じ動画でも、プラットフォームによって届く相手が変わる。ペルソナの行動と照らし合わせることで、2つの役割がはっきり分かれた。

ハッシュタグ戦略

北村は「なるほどな」とうなずいて、自分の仕事に戻っていった。Instagram Reelsを主戦場にし、TikTokでまだ知らない人にも届ける。2つのプラットフォームが決まったところで、次は「どうやって見つけてもらうか」だ。宮本が自分からハッシュタグの提案を始めた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
さぬきビートを軸にショート動画を展開したいんです。ハッシュタグは、体験の名前として日本語の #さぬきビート と英語の #SANUKIBEAT、それにペルソナの林田家が実際に検索している #子連れ旅 の3つをつけたらどうでしょうか
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
英語も入れるんですか?
宮本彩の表情アイコン
宮本
日本語だけだと海外の人に見つけてもらえません。英語も入れておけば、音楽と動きで伝わるコンテンツなら言葉の壁を越えられるかもしれません

宮本がハッシュタグ(投稿にタグをつけて検索されやすくする仕組み)の設計を自ら主導していた。以前は「撮影場所と現場の知識を出す」のが自分の役割だと言っていた宮本が、投稿の企画を自分から提案している。テロップ修正に手を挙げたのに続いて、SNS発信にも主体的に関わり始めていた。現場に足を運ぶ仕事から、投稿全体を設計する仕事へ。宮本のプロジェクトへの関わり方が、少しずつ変わっている。

前川さくらの表情アイコン
前川
いいですね。さぬきビートは言葉がなくても伝わるコンテンツです。国境も越えるかもしれないですよ

前川の言葉に、宮本がうなずく。ハッシュタグは「見つけてもらう」ための設計だ。#さぬきビート は体験の名前を覚えてもらうためのタグだが、その名前を知らない人はそもそも検索しない。だから、ペルソナがふだん使っている #子連れ旅 のような一般的なタグを並べて、すでにある検索行動の側から拾ってもらう。英語タグは海外のユーザーへの入口だ。音楽と動きで構成されたコンテンツは、言語に依存しない。だからこそ、ハッシュタグさえ正しく設計すれば、言葉の壁を越えて届く可能性がある。広告を出すのとは違う。ハッシュタグは「検索される入口」として機能する。

前川さくらの表情アイコン
前川
もうひとつ大事なことがあります。「いつ投稿するか」も設計のうちなんです。ターゲットがスマートフォンを手に取る時間帯を狙うんですよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
林田家の生活リズムに合わせるなら……金曜の夜でしょうか。子どもの寝かしつけが終わったあと、「週末どこ行こう」とスマートフォンを見る時間帯です
前川さくらの表情アイコン
前川
そう、まさにそこです。投稿タイミングはペルソナの行動に合わせて決めるんです

多言語字幕とAIナレーション

プラットフォームの選定とハッシュタグ戦略が決まったところで、西園寺にも通話に加わってもらった。前川の「国境も越えるかもしれない」という言葉を伝えると、西園寺が具体的なアクションを提案してきた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
だったら投稿前に多言語字幕を入れておきましょう。AI翻訳を使えば、英語と中国語の字幕を一括で生成できるの
宮本彩の表情アイコン
宮本
15秒の動画に英語と中国語の字幕をつけるんですか?
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ええ。海外の人が動画を見たとき、字幕があるだけで内容の理解度が大きく変わるでしょう。さぬきビートは音楽と動きで伝わるけれど、「うどん体験」「香川」という文脈は字幕がないと伝わらないの

AI翻訳ツールに日本語のテロップテキストを入力すると、英語と中国語の字幕が数秒で生成された。15秒の動画に載せるテロップは3行しかない。手作業なら翻訳者に依頼して数日かかるところが、AIなら数秒で終わる。小冊子の多言語対応で学んだワークフロー(作業の流れ)の動画版だ。さらに西園寺が「AIナレーション(合成音声)も試してみましょう」と提案した。テキストを入力するだけで、自然な英語の読み上げ音声が生成される。

宮本彩の表情アイコン
宮本
すごい……字幕もナレーションもこんなに速くできるんですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
速く作れるのはAIの力ね。でも正しいかどうかは、人が確認しないとわからないの
日本語テキストからAI翻訳を経て多言語字幕を完成させるワークフローと、AIナレーションの限界を示す概念図

「Factory」と「Yajima」

西園寺の言葉どおり、確認は必要だった。生成された英語字幕をそのまま使えば速いが、「速い」と「正しい」は別の話だ。宮本が画面で英語字幕を一文ずつ読み始めた。現場の地名や施設の名前を知っている宮本だからこそ気づける間違いがあるはずだ。案の定、すぐに声を上げた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
西園寺さん、これ……「さぬき体験工房」が「Sanuki Experience Factory」になっています。工房は工場じゃないですよね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
よく気づいたわね。「factory」は大きな工場を指す言葉なの。あの工房は職人さんの手仕事の場だから、「Workshop」と書かないと、来る前のイメージがずれてしまうでしょう
宮本彩の表情アイコン
宮本
それから、「屋島」が「Yajima」になっています。「Yashima」が正しいはずです
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
小冊子のときと同じですね。あのときも多言語対応でAI翻訳の固有名詞エラーに悩まされました。媒体が変わっても、AIの弱点は同じなんですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
そのとおりよ。AIは一般的な単語の翻訳は得意でも、地名や固有名詞のローマ字変換は苦手なの。「屋島」を「Yashima」と正確に書くためには、地名のデータベースが必要で、多くのAI翻訳ツールはそこまでカバーしていないの

字幕の固有名詞を手動で修正していく。「Sanuki Experience Factory」を「Sanuki Experience Workshop」に、「Yajima」を「Yashima」に直した。たった2か所の修正だが、この2か所を見逃したまま海外に出したら、香川の地名が間違って広まってしまう。AI文字起こしのときに「屋島」が「八島」になった問題と根は同じだ。音声認識でも翻訳でも、AIは一般的なパターンには強いが、地名や固有名詞のように「正解が1つしかない」ものには弱い。AIは全体の8割を速くしてくれるが、残りの2割は人がつなぐ必要がある。

続けて、AIナレーションも聞き直した。英語の読み上げは全体的に自然だったが、固有名詞のアクセントが不自然だった。「Yashima」の発音が英語のイントネーションに引きずられて、日本語の「やしま」とは全く違う音になっている。「Sanuki」の発音もどこか硬い。字幕なら目で読むだけだが、ナレーションは耳に入る。間違った発音が繰り返し聞こえることの影響は、字幕の誤字よりも大きい。

前川さくらの表情アイコン
前川
字幕の誤訳は「読み飛ばされる」かもしれないですけど、ナレーションの間違いは「聞こえてしまう」んです。海外に出すならなおさらですよ
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
前川さんの言うとおりね。字幕は固有名詞を手で直せば済むわね。ナレーションのほうも、読み上げ原稿で「Yashima」を「Yah-shee-mah」のように音に近い綴りに置き換えたり、読みを登録できるツールなら指定して直せるの。ただ、地名をひとつずつ直して聞き直す時間は今はないでしょう。今回は投稿のタイミングを優先して、英語版は字幕だけにしましょう

英語版のナレーションは見送り、字幕のみに切り替えた。字幕は修正すれば使えるし、ナレーションの固有名詞の読みも、読み上げ原稿の綴りを工夫したり読みを登録できるツールを使えば直せる。ただ、地名をひとつずつ確認して聞き直す時間が今はない。だから「字幕だけで十分に伝わる動画にする」という判断を下した。完璧を目指して止まるよりも、使える部分と使えない部分を切り分けて、現実的な方法で前に進む。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
AIの限界を知った上で、今できる最善を選ぶ。それが正しい判断よ

初投稿

秋の夜の事務所で、宮本がスマートフォンの投稿完了画面を見つめ、隣で神谷が覗き込んでいる場面

字幕の修正を終えた15秒ショート動画を、宮本が最終編集した。さぬきビートの足踏みシーン、さぬき体験工房で自然に踊り出す人たちの笑顔、Sunoで生成したテンポのいいBGM。冒頭の1秒で目を引き、15秒で完結する構成だ。画面下部に英語と中国語の字幕が表示される。固有名詞はすべて手動で修正済みだ。投稿テキストには日本語と英語のハッシュタグが設定されている。

投稿前に、前の話で作成した権利チェックリストを通す。BGMの利用規約、収録音の確認、出演者の撮影同意書、映り込みチェック。4つの項目をひとつずつ確認していった。すべてクリアだ。前回は公開直前に問題が3つ同時に見つかって慌てた。あの経験があるから、今はチェックリストという「仕組み」で対応できている。

宮本彩の表情アイコン
宮本
チェックリストがあると安心ですね。前回慌てて直したときとは全然違います
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
あのとき問題が出てくれてよかったです。チェックリストなしで公開していたら、もっと大変なことになっていましたから

金曜の夜。阪神間に住むペルソナの林田家が子どもの寝かしつけを終えて、「週末どこ行こう」とスマートフォンを開く時間帯だ。前川のアドバイスどおり、ターゲットの行動に合わせたタイミングで投稿する。宮本のスマートフォンにアップロードの進行バーが表示された。バーがゆっくり進み、100%に達した。「投稿完了」の表示が出る。

2人で画面を見つめた。さぬきビートの15秒ショート動画が、Instagram ReelsとTikTokに投稿された。再生数はまだ0。「いいね」もコメントもない、真っさらな状態だ。しかし、この動画には英語と中国語の字幕がついている。日本語の #さぬきビート と #子連れ旅、英語の #SANUKIBEAT、3つのハッシュタグが設定されている。プラットフォームを選び、字幕を整え、タイミングを計って投稿した。届く準備は、できている。


📌 覚えるポイント

  • Instagram Reelsはおすすめと検索の両方から見つかりプロフィールまで見てもらいやすく、TikTokはおすすめ経由で未知のユーザーに一気に届き、YouTube Shortsはチャンネルの他の動画への入口になる。届けたい相手と目的でプラットフォームを選ぶ
  • 体験名タグ(#さぬきビート)だけでは、その名前を知らない人に見つけてもらえない。ペルソナが実際に検索する一般タグ(#子連れ旅)と英語タグ(#SANUKIBEAT)を併記して、既存の検索行動と海外の検索の両方に引っかける
  • 多言語字幕はAI翻訳で速く作れるが、固有名詞は必ず人が確認する。「さぬき体験工房→Sanuki Experience Factory」「屋島→Yajima」のような誤訳は、媒体が変わっても同じように起きる
  • AIナレーションは便利だが、固有名詞の読みは初期設定のままだと崩れる。読みを登録できるツールなら直せるし、その手当てをする時間がないなら字幕で補えばいい。字幕の誤りは読み飛ばされるが、ナレーションの誤りは聞こえてしまう
  • 「いつ投稿するか」も設計の一部。ペルソナがスマートフォンを手に取る時間帯に合わせて投稿する
  • BGMの利用規約・収録音の確認・出演者の撮影同意書・映り込みチェックの4項目は、毎回の投稿前に通す。仕組みにしておかないと、急いでいる日に飛ばしてしまう

📖 覚える用語

ハッシュタグ戦略
SNS投稿にタグ(#記号+キーワード)をつけて、投稿を見つけてもらいやすくするための設計。どのタグを何本組み合わせるかを、届けたい相手の検索行動から決める。
AIナレーション(合成音声)
テキストを入力すると、AIが人の声に近い読み上げ音声を生成する技術。ナレーターを手配せずに多言語の音声を短時間で用意できる。一方で固有名詞の読みやアクセントは初期設定のままだと崩れやすく、字幕は目で読み飛ばせるがナレーションは耳に入るため、誤りがそのまま伝わってしまう
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
SNSプラットフォームの選定
さぬきビートの15秒ショート動画を、Instagram ReelsとTikTokに投稿しました。ペルソナの林田家がInstagramで子連れ旅の情報を検索しているため、Instagram Reelsを主戦場にしています。TikTokではまだ知らない人に見つけてもらうチャネルとして並行運用します
多言語字幕の付与と品質管理
英語と中国語の字幕をAI翻訳で生成しました。ただし固有名詞の誤訳(「さぬき体験工房→Sanuki Experience Factory」「屋島→Yajima」)が複数見つかり、すべて手動で修正しました。AIナレーションも試しましたが固有名詞の発音に限界があるため、英語版は字幕のみで公開しています
ハッシュタグと投稿タイミングの設計
宮本が日本語の #さぬきビート と #子連れ旅、英語の #SANUKIBEAT を併記するハッシュタグ戦略を提案しました。投稿タイミングは金曜夜に設定し、ターゲット家庭が週末の予定を検討する時間帯に合わせています

まとめ

動画を「作る」と「届ける」は別の仕事だ。プラットフォームを選び、ハッシュタグを設計し、字幕を整え、投稿のタイミングを計る。AIは翻訳も字幕も速く生成してくれるが、固有名詞の正確さは人が担保する。すべての準備を終えて投稿ボタンを押したとき、「発信」はようやく始まる。