Shiny Academy

AI×動画制作コース

~第9話 "また見たい"を仕組みにする~

前回のあらすじ

さぬきビートのTikTok動画が海外ユーザーのデュエット投稿をきっかけに爆発的に拡散した。北村代表理事は海外からの反響に涙し、自ら旅行会社に電話して多言語ツアーページの交渉を始めた。バズの興奮のなかで西園寺が「ペルソナの軸がぶれたらバズに振り回されるだけ」と釘を刺し、プライマリーターゲットを林田家に置いたまま、海外の受け皿を並行で整備する方針が固まった。

フォロワー数より"また見たい"の数

事務所で神谷と宮本がノートPCを通じて前川さくらとオンライン通話をしている場面

さぬきビートのバズ(SNSで爆発的に話題になること)から数日が過ぎた秋の朝。せとうちマーレブルの事務所では、旅行会社との打ち合わせ準備と並行して、もう一つの課題が浮かび上がっていた。バズで急増したフォロワー(自分の投稿を見てくれている人)をどうつなぎとめるか。神谷は、まるやまマートの駅前店でSNSやLINEの発信を担当している前川さくらにオンラインで相談を持ちかけた。

ノートPCの画面に前川の笑顔が映った。前川は若手ながらSNSの運用に明るく、まるやまマートで実際に店舗のSNSアカウントを育ててきた経験がある。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
前川さん、お忙しいところありがとうございます。バズのあと、SNSをどう運用していけばいいか悩んでいて
前川さくらの表情アイコン
前川
すごいことになってましたよね! でもここからが本番なんです。フォロワー数より、"次の投稿を楽しみにしてくれる人"の数が大事なんですよ。バズで来てくれた人を"また見たい"に変えるのが、ここからの仕事です

前川の言葉は明快だった。バズは入口にすぎない。一度見てくれた人が「次も見よう」と思ってくれなければ、再生数はやがてゼロに戻る。

宮本彩の表情アイコン
宮本
フォロワーの数じゃなくて、質なんですね。どうすれば"また見たい"と思ってもらえるんですか
前川さくらの表情アイコン
前川
まず投稿の計画を立てることです。いつ、何を投稿するかを決めておく。行き当たりばったりで投稿していると、ネタが尽きて止まっちゃうんですよ。計画があれば続けられます

コンテンツカレンダーを組む

事務所のホワイトボードの前で宮本がマーカーを手にコンテンツカレンダーを書き出し、横で神谷がスマートフォンを見ている場面

前川のアドバイスを受けて、宮本がホワイトボードの前に立った。赤いマーカーを手に、1週間の曜日を横に並べて書き始める。ノートPCの画面では、西園寺と前川がオンラインで参加している。前川の提案で、まず投稿の頻度から決めることになった。

前川さくらの表情アイコン
前川
投稿の頻度は、続けられる上限から決めるのがいいと思います。多すぎると作る側が疲弊しますし、少なすぎるとフォロワーに忘れられちゃう。今の人数と、1本にかかる編集の手間から逆算すると、週2回くらいが無理なく続けられそうですよ
宮本彩の表情アイコン
宮本
週2回なら、火曜日と金曜日がいいと思います。火曜日にうどん体験の動画、金曜日に屋島の風景かフェリーの旅の動画。テーマを交互にすれば飽きません

宮本がホワイトボードに「火=うどん」「金=風景」と書き込んだ。投稿の内容・タイミング・頻度を計画的に管理するこの仕組みを、コンテンツカレンダーと呼ぶ。曜日ごとにテーマが決まれば、何を撮るか、何を編集するかが自然と見えてくる。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
いいわね。でもね、曜日だけじゃなくて、投稿する時間帯もペルソナ(たった一人の理想の視聴者像)の生活リズムで考えてみて。火曜は週明けの慌ただしさが一段落する頃——癒しのうどん動画がぴったりでしょう。金曜は"今週末どこ行こう"って考える時間帯——屋島やフェリーの動画が効くの。投稿のタイミングもペルソナから逆算するのよ
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
タイミングもペルソナから逆算する。具体的な投稿時間は、どう決めればいいですか

宮本がスマートフォンを取り出し、画面をノートPCのカメラに向けた。コメントと"いいね"の通知がずらりと並んでいる。

宮本彩の表情アイコン
宮本
夜9時台と土曜の朝は、コメントの反応がいちばん多いんです。ペルソナの家族を考えると、子どもを寝かしつけた後の金曜夜がいちばんスマートフォンを開く時間ですよね。そこに屋島の風景が流れてきたら、"今週末、行ってみようか"ってなりません?
コンテンツカレンダーの構造図。火曜と金曜の投稿テーマをペルソナの生活リズムから逆算して配置している

日々の反応の手応えとペルソナの生活パターンを重ね合わせて、投稿タイミングを割り出す。気づけば宮本が、反応の多い時間帯から投稿の時間を提案していた。

前川さくらの表情アイコン
前川
それ、すごくいいです! ペルソナの行動に合わせて投稿するって、届けたい相手の生活に寄り添うってことですよね

ホワイトボードのコンテンツカレンダーに、投稿時間が書き加えられた。「金曜 21:00」。林田家のお母さんが子どもを寝かしつけて、ほっとひと息ついてスマートフォンを開く時間。そこに屋島の風景が流れてくる。投稿の設計は、届けたい人の1日を想像することから始まる。

コメント返信ルール

コンテンツカレンダーの枠組みが決まると、宮本がフィールドノートを開いて次の議題を切り出した。

宮本彩の表情アイコン
宮本
もう一つ、コメントへの返信ルールを決めておきたいんです。バズのあとコメントがたくさん来ているのに、どう返していいかわからなくて、返事ができていないんです
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
確かに。コメントをもらっているのに放置してしまうと、せっかくの接点がもったいないですよね
宮本彩の表情アイコン
宮本
なので、ルールを決めました。24時間以内に返信する。感謝の言葉を入れる。そして1つだけ質問を返す。"ありがとうございます! 香川は初めてですか?"みたいに。会話を続けるためです

宮本の提案は、コメント欄を一方通行の掲示板から双方向の会話の場に変える仕組みだった。感謝を伝え、質問を返すことで「もう一言」を引き出す。その繰り返しが「また見たい」を「また話したい」に育てていく。

問題は海外からのコメントだった。英語のコメントが急増していたが、宮本も神谷も英語での返信には自信がない。宮本がAI翻訳を使って簡易な英語の返信テンプレートを作り、翻訳結果を確認しながら実際に返信を打ち始めた。

宮本彩の表情アイコン
宮本
Thank you! Have you been to Kagawa before?——これで合ってますか?
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
ええ、大丈夫です。シンプルな英語のほうがむしろ伝わりやすいですよ

宮本が神谷に確認しつつも、返信ボタンを押すのは自分の指だ。続けて、SNSのプロフィール欄に旅行会社のサイトへのリンクを設置した。コメントで会話が生まれ、プロフィールを見てくれた人が旅行会社のサイトにたどり着く。「興味を持つ」から「行動する」への入口が、宮本の手でひとまずつながった。

SNS分析指標を3つに絞る

コンテンツカレンダーとコメント返信の仕組みが整ったところで、西園寺がオンラインの画面越しに声をかけた。

西園寺遥の表情アイコン
西園寺
運用の仕組みが、よくまとまりましたね。次は、やったことの効果をどう測るか。ここでも指標を3つに絞りましょう
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
3つに絞る、ですか
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
指標が多すぎると、何を改善すればいいか見えなくなってしまうでしょう。見るべき数字は3つだけで十分ですよ。画面を共有しますね

西園寺がオンラインの画面越しに分析画面を共有した。数字がいくつも並んでいる。北村がノートPCの画面を覗き込んだ。

北村裕の表情アイコン
北村
数字がずらっと並んでいるが……これはどこを見ればいいんだ
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
北村さん、一番上の数字をご覧になってみてください。この投稿がどれだけの人に届いたか——これをリーチと呼ぶんです
北村裕の表情アイコン
北村
なるほど、それだけの人に届いたのか。……その下の数字は、"いいね"とコメントの合計のようだが
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ええ、その見方で合っていますよ。届いた人がどれだけ反応してくれたか——それをエンゲージメントと言うんです。そして一番下の数字がプロフィールクリックですね。反応した人が旅行会社のツアーページまで来てくれたかどうかですよ
SNS分析指標の3層漏斗図。リーチ、エンゲージメント、プロフィールクリックの3つの指標を漏斗型に配置している

リーチで「届いたか」を測り、エンゲージメントで「反応したか」を測り、プロフィールクリックで「行動したか」を測る。3つの指標は「届く→反応する→動く」の一連の流れに対応している。この流れのどこで人が離れているかがわかれば、次に何を改善すべきかが見えてくる。

神谷悠馬の表情アイコン
神谷
届いたか、反応したか、行動したか。3つの流れがつながっているんですね
西園寺遥の表情アイコン
西園寺
ええ。3つに絞れば、どこで人が離れているかがすぐわかるでしょう

北村はエンゲージメントという言葉は使わない。しかし「"いいね"とコメントの合計」という自分の言葉で画面の数字を読み取り、それが何を示しているかを理解し始めている。専門用語を覚えることと、成果を自分の目で判断できることは、別のことだ。

なぜさぬきビートが刺さったのか

運用の仕組みと分析の指標が一通り決まったところで、前川がオンラインの画面から「もう1つだけいいですか」と切り出した。

前川さくらの表情アイコン
前川
仕組みを作るのと同時に、なぜさぬきビートが刺さったのかを分析しておきましょう。バズの理由がわからないまま次を作ると、何が効いたのかわからなくなるので
バズ要因分析図。音楽、動き、笑顔の3要素とペルソナ設計からバズの核に至る因果関係を示している

なぜさぬきビートが海を越えて広がったのか。前川の問いかけで、全員がバズの要因を振り返る時間になった。

前川さくらの表情アイコン
前川
さぬきビートが世界中に広がった理由は、3つの要素に集約できると思います。音楽×動き×笑顔——この3つは言語がいらないんです。だから世界共通の感情に届いたんですよね
宮本彩の表情アイコン
宮本
さぬきビートの撮影のとき、友達たちと子どもが自然に一緒に踊り出したんです。あの映像が核でした。台本では絶対に出せない空気だった
神谷悠馬の表情アイコン
神谷
あの子ども、ペルソナの林田家と同じ年齢でした。ペルソナ設計があったからこそ、ファミリー向けの撮影に子どもの自然な姿を入れたんです。あの判断がバズの核になっていたんですね

ペルソナの設計は「誰に届けるか」を決める作業だった。林田家のような子育て家庭をプライマリーに据えたからこそ、撮影の場に子どもを迎え入れた。その子どもが踊り出した瞬間は、台本にはなかった偶然だ。しかし偶然を捉えられる場を設計したこと——ファミリー向けの撮影にしたこと——はペルソナから生まれていた。

北村裕の表情アイコン
北村
現場の空気を"仕組み"にするんだな。……面白いもんだ

北村の一言に、部屋が一瞬静まった。北村は分析の専門用語を知らない。しかし「現場の空気を仕組みにする」という言い方で、バズ分析の本質を自分の言葉で掴んでいた。

北村の静かな理解

窓から差し込む光の角度が変わり、午後になっていた。ホワイトボードには、コンテンツカレンダー、コメント返信ルール、分析指標の3つの仕組みがまとめられている。前川と西園寺はオンラインの画面から見守っている。

宮本彩の表情アイコン
宮本
来週の火曜から始めます。最初の投稿は、うどん体験の動画です

宮本の声には、バズの興奮ではなく、持続的な運用に踏み出す静かな決意があった。来週の火曜にうどん体験の動画を投稿し、金曜に屋島の風景を届ける。コメントには24時間以内に返信する。やるべきことが明確になれば、不安は消える。

北村がノートPCの分析画面を眺めながら、静かに言った。

北村裕の表情アイコン
北村
数字で見ると、やったことが残るんだな

北村はSNSの仕組みを理解しているわけではない。しかし画面の数字を見て、自分たちの「やったこと」の痕跡がそこに残っていることを感じ取っている。動画を作り、投稿し、コメントに返信した日々の積み重ねが、数字として残る。


📌 覚えるポイント

  • バズを「また見たい」に変えるのは、投稿の内容・タイミング・頻度を計画的に管理するコンテンツカレンダー。頻度は「続けられる上限」から決める。せとうちマーレブルは動画を作れる人手が限られるため、週2回(火・金)に置いた
  • 投稿タイミングはペルソナの生活リズムから逆算する。金曜夜は林田家が子どもを寝かしつけた後にスマートフォンを開く時間。そこに旅の動画が流れてきたら「今週末、行ってみようか」になる
  • コメントには24時間以内に返し、感謝に質問を1つ添える。返信の速さと質問が会話を続かせ、フォロワー数よりも「次の投稿を楽しみにしてくれる人」が増えていく
  • 見る指標はリーチ(届いた数)・エンゲージメント(反応の数)・プロフィールクリック(次の行動への誘導)の3つに絞る。指標が多すぎると判断が鈍る
  • バズの核は、台本では出せない本物の空気にあった。さぬきビートの撮影で子どもが自然に踊り出した瞬間が世界中に刺さったのも、ファミリー向けというペルソナ設計があって、その場に居合わせられたからだ
  • 再現できる要素(音楽・動き・笑顔)と偶然の要素(子どもが踊り出した瞬間)を切り分けておくと、次のコンテンツづくりに活かせる。ペルソナ設計は、その偶然に立ち会うための準備でもある

📖 覚える用語

コンテンツカレンダー
投稿の内容・タイミング・頻度を計画的に管理する仕組み。曜日ごとにテーマを決め、ペルソナの生活リズムに合わせて投稿時間を設定することで、バズの一過性に頼らない持続的なSNS運用ができる
リーチ
投稿が何人に届いたかを表す指標。同じ人が複数回見ても1人と数える点で、表示された回数の合計であるインプレッションとは別の数字になる。エンゲージメント(反応の数)やプロフィールクリック(次の行動)と並べて「届く→反応する→動く」の順に見ると、どこで人が離れているかがわかる
エンゲージメント
SNS投稿に対する反応("いいね"・コメント・シェア等)の総量。投稿がどれだけの人に「届いたか」を測るリーチが「届いた範囲」の指標であるのに対し、エンゲージメントは「届いたあとに起きた反応の数」の指標。ただし総量は届いた人数が多いほど自動的に増えるため、投稿どうしを比べるときは、届いた人数に対する割合(エンゲージメント率=反応数÷リーチ数)で見る
📝 神谷の北村さんへの報告メモ
コンテンツカレンダーの設計
週2回(火曜=うどん体験動画、金曜=屋島・フェリーの風景動画)のコンテンツカレンダーを設計しました。投稿時間はペルソナ(林田家)の生活リズムから逆算し、金曜21時に設定しています。来週の火曜から運用を開始します
コメント対応と海外への導線整備
コメント返信のルール(24時間以内・感謝+1質問)を宮本さん主導で策定しました。海外コメントにはAI翻訳で英語テンプレートを作成し、返信を開始しています。プロフィール欄に旅行会社のサイトへのリンクも設置しました
SNS分析指標とバズ要因の整理
効果測定の指標をリーチ・エンゲージメント・プロフィールクリックの3つに絞りました。さぬきビートのバズ要因は「音楽×動き×笑顔=言語不要のエモーション」に集約され、ペルソナ設計に基づくファミリー向け撮影が偶然の瞬間を捉えた核だったと分析しています

まとめ

バズは入口であって、ゴールではない。コンテンツカレンダーで「いつ・何を」を決め、コメント返信で「会話」を続け、3つの指標で「効果」を測る。すべてペルソナから逆算した仕組みだ。"また見たい"が積み重なった先に、「行ってみよう」がある。